第287話 ねぇ?引っ越ししよう!

 領地に来て2日目。

 私たちは、領地の屋敷を拠点としてみなが集まっている。

 とりあえず、ここに資料などたくさんあるからなのだが……それにしたってだ。



 領地の屋敷が、人だらけになった。

 ノクトにイチアをインゼロから受け入れ、ウィルとセバスとナタリーを公都から受け入れ、屋敷の客間はいっぱいになったのだ。

 そして、領地からもちょくちょく人が来るようになる。

 なので、屋敷に入ると密度があり、圧迫感がすごい。

 この屋敷、生活するためのものではないから、ちょっと小さいのだ。



 まず、みんなの住むところを考えないといけないな……なんだか、息苦しいわ。



 領地の屋敷より、別荘の方が実は大きいし生活する面でいろいろと部屋が揃っている。

 領地のど真ん中にあることを考えても利便性がいいようだ。



 私は、考える。

 どうせ全てをやり直すなら、全て収まるところを職場にしてしまえばいいのではないかと……

 手間ではあるけど……今、やらない手はないわね!

 そう、領主の住む屋敷を学校とし、別荘を拠点とすることを決めた。



 呑気なことを考えているが、この執務室も密度が濃すぎる。

 体の大きい男性ばかりが出入りする執務室が特に狭く感じ圧迫されているようだ。

 私は執務机のところに座っているいるから何ともないけど、見ているとかなり窮屈そうにしている。

 大きな男性陣、特にウィルとノクトとリリーがいると三人だけで私の視界がいっぱいだった。

 さらにセバスとイチアとニコライが入っていて、ビルとか元商人たちが入ってくる場合もある。



 ……狭い……



 せっかく仕事をしてもらうのだ、その環境は手間がかかってもきちんと整えるべきだ。

 回りまわって私も使うのだから……そして、何より圧迫感からくる息苦しさも感じる。



 とにかく何事も早く始めないと準備にも時間がかかる。

 さっそく、声をかけることにした。



「狭い部屋で資料を並べてるところ悪いんだけど……大男ばかりで息が詰まりそう!

 まず、私たち別荘に引っ越ししましょう!

 領地の真ん中だから、利便性も今より良くなるはずだから!」

「姫さんさ……」



 ウィルがこの忙しいときにという顔を一瞬したが、ちょっと今の状況を見まわして考えてくれたようだ。



「それ、いいな!

 領地の真ん中を拠点にすれば移動がしやすい。じゃあ、引っ越しするか!」



 みんなが、やる気になった。

 しめた、これで、この圧迫感から解放される!と喜んだ。


 でも、ちょっと、待ってほしい。

 別荘も改装しないとここと同じことが起きないとも限らない。



 ちなみ、別荘は4階建て地下ありだ。

 1階部分を行政関係の執務室をはじめとする働く場所にしてしまう。

 2階部分を客間にしてしまい、3階部分を領主の居住区、4階部分を侍従たちの居住区と割り振ってしまおうと考える。

 地下部分は、物資の貯蔵を考える。

 別荘は、川からは離れていたので、水害などは、大丈夫だろうという判断をくだす。




「別荘の設計図とかあるのかしら?」



 呟いただけで、デリアが出してきてくれた。

 この屋敷のことは、端から端まで全てに置いて把握しているようだった。

 優秀だよ……優秀すぎるよ!と感心してしまう。



 ありがとうと設計図をもらい、机の上に広げていく。

 そこにみなが頭を寄せてくる。



「あの……見えないから、少し下がってくれる?」



 一旦後ろに下がってもらう。

 この部屋に今いるのは、ウィル、ノクト、セバス、イチア、ニコライ、デリアだ。

 とにかく、ウィルとノクトが大きいし、元々この部屋にこんなに人が入ることを想定されていないので、狭くて仕方がない。



 私はさっき思い描いたものを話始める。



「この別荘、見てわかるように地上4階地下1階なの。

 それでね、まず、1階を私たちが仕事場として使いたいわ。

 他にもビルたちのもここに場所を作ってもいいし、この部屋を領主の執務室に

 したいなぁ?」



 南側の日当たり良好な場所を指して、チラッとみんなを見回すと、いいよと仕方なさげに言ってくれる。



「ここの部屋を広げたいわね。

 大きな机を置いて作業や打ち合わせができるようにしたいわ。

 その隣は玄関が近いから、ニコライのお店の出張所として小さなお店を置いてもいいし、

 反対側をビルたちにお願いする仕事の窓口としてもいいしかしら?」

「ビルさんたちの部屋は、事務室と窓口は分けた方がいいと思うぞ?

 変なのも入ってくるだろうから、警備隊からも人をつけておくのも忘れずにな」

「そう考えるなら、執務室は2階の方がいいんじゃないか?

 アンナリーゼ様が常にいるわけだし、その方がいいと思う」

「なるほど、領主の命を狙う者や、たまたま入ってきた招かざる者が侵入してしまった

 ことを想定すると、それが無難だな」



 ノクトが示したのは、私がここがいいと言ったところの2階の部屋だった。



「ここなら、アンナも文句ないだろ?」

「じゃあ、ここはどうするの?」

「学校にすればいいんじゃないか?

 そんなに初めは多く人も集まらないだろう?

 今の屋敷を、研究者に渡すとしたら、そこが最適だと思うぜ?

 目の前に商売という教材もあるしな!」



 なるほど……ノクトやセバスのいうことは、もっともである。

 私、この領地でも、命を狙われることもあるのだ。

 領地だから大丈夫……その油断はするべきじゃない。

 今まで、何もなかっただけなのだろう。



「その案、採用よ!

 じゃあ、余った両端の部屋を学校にしましょう。

 ナタリーのとこの女の子たちが手伝ってくれるだろうから……お願いしましょう」

「ナタリーのところのね……なんか、聞いた話、すごいな!

 カゴバックの改良に染物を教えたり変わった料理やお菓子を作っているとか、

 これは、姫さんの指示か?

 文字を教えてるって話をちらほら聞いた」

「ナタリー様のお話は、お屋敷にいてもよく聞きましたよ。

 女性たちがどんどん町や村の人たちに声をかけて勉強会をしているって」



 先日ノクトと一緒に領地を回ったウィルと、領地にしばらく滞在していたデリアからの話は興味深い。

 やはり、ナタリーの教育のたまものなのだろう。

 ジョーの淑女教育は、ナタリー先生に任せると心に誓う。

 まぁ、他は考えていないのだけど……



「そうなのね!その話、もっと聞きたいけど……まずは、引越しの話。

 2階は、領主の執務室とあなたたちの当面の部屋よ!」

「あぁ、そりゃ助かる。俺たち、どこで寝るんだ?と思ってたとこだ」

「当面ね。いずれは、どこかに立ててくれると嬉しいな。

 でも、ノクトの別宅みたいな豪華なのは……ちょっとやめてね?

 なるべく質素にお願いします……」



 ウィルに連れられて行ったあの屋敷を思い出す。

 あれは、王侯愛人用の別宅だ……あんなのを領地に建てられたらたまったものじゃない。



「わかった。その時は、どこに建てるかも含めて相談する」

「そうしてくれると助かるわ!」

「俺は、ここにずっとじゃダメ?」

「ウィル、それは甘えすぎじゃない?」

「やっぱり?」

「やっぱり?じゃないわよ!高給取りのお貴族様が何を言ってらっしゃるのか。

 アンバー領にお金をつべこべ言わずに落としなさい!」



 はいはいと言ってウィルは笑っている。

 まぁ、ウィルのことだから、時期が来たらちゃんと考えてくれるだろう。

 面倒見てもいいんだけど……さすがに、奥さんできたら、こんなとこで住むの嫌でしょうしね……そのときにイロイロ考えてもらおう。

 爵位だけなら伯爵様なのだし、中隊長でもあるから、高給取りなのだから。



「セバスたちもここで生活してちょうだい。

 ナタリーは、私たちと同じ階で生活させるから大丈夫だし……

 常に護身用に何か持っているように言っておくわ!」



 最後のは冗談のつもりで言ったがのだが……みな本気にしているようだった。

 ゴクリと唾を飲み込んでいるのだけど、何かあるのかしら?聞かない方がいいこともあるわねと笑って誤魔化しておくことにした。

 すると、緊張の走った空気も少し和らぐ。


 私が護身用になんて言ったら、ナタリーならしっかり何か持つことはあり得るらしい。

 そんなことないわよ!なんて言い返したけど、自分でもそんなことあるかもと思いなおしたのである。


 かくして、公都から引越ししてきたばかりなのだが、また、引越しすることになったのである。

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