第288話 大人しくしているようにと言われましても

 引っ越しが決まった。

 というか、かねてより改装をと思っていた領地の別荘を本格的に実用できるものに変更することになった。

 それに伴い、私たちは、リリーに大工仕事ができる人をお掃除隊の中からと領地の各地で募ってもらう。

 別荘の中にあるものを一旦すべて出してしまわないといけないので、デリアが領地の侍従を連れ別荘に行き、各地に散らばっているナタリーが面倒をみていた女性たちにも呼びかけ手伝ってくれることになった。

 おかげで、片づけはあんなに大きな屋敷にも関わらず3日で終わった。

 なんでも、デリアがこの1ヶ月の間に片付けを始めていたらしい。

 領地の屋敷の掌握だけでなく、いつの間にか別荘の掌握もしている。

 何者か……問うてみたくなるほど、できる女になっていた。


 そんなできる女もそろそろ……結婚とか意識しないのだろうか?

 私にばかりかまけていていいのか、不安になる。

 大事な従者だからこそ、そういう自身の幸せも考えてほしいものであるのだが……この状況で、デリアが抜けられたら、もっとも困るのは私なのだ。

 なので、口に出して言ってあげられないのも申し訳ない。

 この領地が落ち着いた暁には……デリアにもウィルにもセバスにもナタリーにも言おう。

 幸せにならないと、ダメだよと……いや、幸せは人それぞれだから、ね?押し付けるつもりはないけど、いつまでも私に付き合ってくれて申し訳なさも感じてしまう。



 次に始めたのは、別荘の改装工事。

 壁をぶち抜いてもらったり、お店ができるようにしてもらったり、扉を付けてもらったりと改装は色々としてもらうことがある。

 それは、リリーが集めてくれた大工のおじさんお兄さんたちが汗をかきながら頑張ってくれているらしい。

 リリーが、毎日現場を見に行っては報告をくれるので助かる。

 ちなみに、女性陣がお引越しの手伝いでウロウロしているからか、かなり張り切って作業をしているのであっという間に終わるだろうという報告だった。

 こっそっと、応援しておこう。

 お掃除隊のみんなも大工のおじさんお兄さんも、ガンバレ!

 


 ここでも、私の出番はなかった。

 寧ろ、素人の私が出しゃばっていいわけもないので、大人しくリリーの報告を聞いて頷いておくしかない。

 改装工事2日目に、そういえば、ニコライやビルたちに、まだ、引越しの話と拠点を変える話をしていなかったのを思い出し、リリーに四人を呼び出してもらうことをお願いして説明をすることにした。

 そして、次の日には、四人とも来てくれた。

 なんでも、こちらでも今後のことを考えて情報共有するために集まる予定があったそうで、私が領地に戻ってきていることを聞いたから挨拶に行かないとと思っていたところだったということだ。



「久しぶりね!元気だった?」

「はい、おかげさまで、町も状態はイイですし、お掃除隊がいろいろと困ったことには手を貸してくれて

 いますので、大変助かっております」

「それは、よかったわ。

 他に困ったこととか、何かなければ、今回来てもらった件の話をしようと思っているのだけど……」



 困ったことですか?とお互い顔を合わせて考えていたが、特に今思いつくものがないようだった。



「じゃあ、私の話をするわね!アンバー領の拠点を別荘に変更しようと思うの。

 ここより大きいし、広いし、何より領地の真ん中にあるから移動も便利かなって。

 進めちゃっているんだけど……どうかしら?」

「別荘にですか?

 それは、助かる!私の町からだと、ビルのところへ出向くのも時間がかかっていたので、別荘を拠点に

 してもらえると、本当に助かります!」



 ユービス住むの町からは、ビルの住む町までは遠い。

 なので、喜んでもらえてよかった。

 攻略しないといけないのは、あとは一人だ。



「テクトはどうかしら?」

「私は何も。1番近くになるのに、文句など何もございません。

 それで、拠点をそこにするとして、組織の拠点もそこになると考えていいですか?」

「うん、そうしようと思う。別荘には入ったことがあるかしら?」

「ないですね……」



 私は机の上に別荘の図面を置くと、四人が覗き込む。



「玄関を入った両側をあなたたち四人に管理してもらおうと思っているの。

 こちら側をニコライに。こちら側の二部屋をあなたたちにお願いしたいわ。

 イメージは、ここが受付にして、実務を奥でする形を考えているのだけど、どう?」

「なるほど、アンナリーゼ様には、明確にこうしたいというものがあるのですね」

「あるけど、実際使う人が使い勝手とか確認をした方がいいと思うから、時間があれば四人で見に行って

 来てほしいの。

 変更箇所があれば、その場で交渉してくれたらいいし。それは、許可するわ!」

「ちなみにアンナリーゼ様たちの執務室は、2階でいいですか?」

「うん、この部屋……」

「なるほど……領主の部屋がここにあると、私たちも助かります」



 納得してくれたようで、なんとかこれで進められそうだ。



「それで、私たちは、何から始めましょうか?」

「そうね、今、始められることは、商人・職人・農民の把握だね。

 これ、結構骨がおれると思うんだけど……できる?

 セバスとイチアとで進めようとしている住民の把握を手伝ってもらえるといいかもしれないわ!」

「住民の把握ですか?」

「そう、ゆくゆくは、税金の徴収方法を変えたいって言ってたのは覚えている?」

「はい、確か15歳以下には、税を課さない。働いて稼いだ分のうちから経費を引いた分で税金をもらうと

 言ってらっしゃいましたね?」

「そう、それをしようとすると、どうしても人の管理が必要なのよ。

 それを今、二人がどうやって申請してもらうのがいいのかって考えているわ!

 例えば、そこに職業を書いてもらって、そこからあなたたちのほうでも管理したらどうかしら?と

 思って」



 私の話を聞いて、すぐ理解できるのはさすが元商人というところだろう。



「もし、セバスたちと話がしたいなら、隣の部屋にいるから混ざって言ってくれるといいわ!

 紹介ってしたわよね?」

「はい、大丈夫です」



 そういって、元商人たちは部屋を出ていく。

 補足だが、みんな息子たちに商売を譲ったらしい。

 私の領地改革の方がおもしろそうだという理由から。

 ユービスなんて、葡萄酒を復活してくれたからついて行きますという話だったので……そんなことで大丈夫なのかと思うが、きっと利に聡い商人だから、利益に通づることを見通せたのだろう。

 実際、ニコライに任せる商売は、大きな利益を生むに違いないと私は期待している。



「ニコライは、商売の話かしら?まだ、提示できるものはないのだけど……葡萄酒くらいかしらね?

 今のところ軌道にのりそうなのは。あとは、あの高級茶葉かしら?」



 私は思案顔でニコライに尋ねると頷く。



「それは、そうですね。

 あの葡萄酒と紅茶茶葉は、アンバーのみの特産品ですから……

 でも、アンナリーゼ様は、他にも何か考えてらっしゃるのですよね?

 砂糖とかは、まだ先の話だと思うから……」

「うーん、今は、細々と残っている葡萄酒を売ることとカゴバックの改良版くらいしか思いつかないの

 よね……あと、アンバーでとれる麦をね、一手に買い付けようと思っているの。

 食糧庫を作って災害とかに備えるように欲しいなと思っていてね!

 例えば、小麦を買い入れしているところとかに売りつけてもいいし、とかね?

 領地にはなるべく安くモノが入るようにもしたいのよね。そのために領地の店を一本化したいわ」

「それは、今ある店を潰すということですか?」

「ちょっと、違うけど、あってる。今ある店を、統廃合して支店にしてしまおうかなって。

 アンバーでの利益なんて、公都の利益に比べれば雀の涙程のものよ。

 店の権利を売れって言っても誰も文句言わないかなって。

 その代わり、お給金を払って雇う形になるのかしらね?」



 とりあえずの話をニコライにすると、感心される。

 でも、まだ、ぼやっと考えているだけなのだ。

 ビルたちが先導してくれてやっと、ニコライを頭にアンバー領地に支店を作れるって話なのだから……



「あと、買い付けなんだけど、ノクトも連れて行ってくれる?

 多分、ニコライより、顔がきくわ。

 ものが安く手に入るはずよ。エルドアのエレーナから人を借りたとしてもおつりが

 くるくらいにはなるだろうし、何より護衛がいらないからお金が浮くのよね」

「アンナリーゼ様、ノクト様をそんな風に使っていいのですか?」

「いいわよ。私の従者だもの。好きに使ってって本人も言ってたし、働いてもらわないと食扶持ないわよ

 っていってあるから、喜んでニコライについていくわ!

 イチアの方も、セバスと協力してくれるらしいし、何か相談があればセバスとイチアに声かけると

 いいよ。ノクトも私と一緒で、たぶん雑だから説明ヘタそうだし、その点、イチアは軍師だったから、

 人に教えるのも経験値も違うわよ!」



 私がポンポンと話しているのをへぇーっという顔で見てくる。

 いや、私も公爵になったのだから、色々勉強もするし考えているのよと笑う。



「アンナリーゼ様は、元々考えてくださってましたよ。

 具体的に動けるようになったので、今後が楽しみでしかたありません!」

「そう言ってくれるなら、私も張り切るしかないね!」

「お体にはくれぐれも気を付けてください。アンナリーゼ様を旗印にたくさんの人が動いているのです。

 自分の体を一番に考えてくださいね。アンバーの未来がかかっているのですから!」



 うんと頷く。

 そんなに期待してもらえるのなら、私は、頑張るよ!そう伝えようとしたとき、扉が開いてデリアが入ってきた。



「ニコライ様、あまり、アンナ様をたきつけないでください。

 倒れるまで働いてしまいますから……今、お体も大切なときなのですからね!」

「と、いうと?」

「秋にお子様が生まれるのですよ!」

「それは……!おめでとうございます!では、早速……準備も」

「準備は、まだ、いいわ。

 それまでに、また、ひと悶着あるから……それが終わってからにしましょう。

 それより、ごめんね。期待してくれているのに……」

「何を言ってますか?アンナリーゼ様の出産が第一ですよ。体には気を付けてください」

「ありがとう!

 それでね?そろそろ、ジョーの1歳の誕生日なんだけど……何かお祝いしたいの。

 どうしようか迷っているのよね。こんな時期だから……」



 みんな忙しそうにしているのだ……子どもの誕生日を祝ってもいいのだろうか?と考えていた。

 いや、私が祝いたいのだ。

 ジョージアと私の大事な子どもなのだから……



「いいと思いますよ。

 気が引けるのであれば、もういっそのこと、アンバー領全体でお祭りにしてしまえば、いいんじゃ

 ないですか?きっと、領民も喜びますよ!

 アンバー公爵夫人に期待していますからね!」

「それは、素敵ですね!アンナ様、ぜひ、そうしましょう!」

「でも、お金が……」

「けち臭いこと言わないでください。ジョー様の今後を考えても、その方がいいと思いますよ!」

「ケチ……わ……わかったわ!

 ちょっと、工作してくる。それでお金作るから……いくらいるかしら?

 お祭りにするなら食べ物よね……うーん」

「任せてください。そういうの得意なんで!」



 ニコライがニコリと笑う。

 いや、今、商人の笑いだった!私から、ふんだくるつもりだ……でも、そうね。

 せっかくだから、領地のみんなに祝ってもらいましょう。



「お酒、葡萄酒と蒸留酒を合わせて100用意して。

 食べ物は……何がいいかしら?任せるは。

 予算は……700で足りる?」

「十分すぎるかと……」

「盛大に祝いますか!」

「アンナ様は大人しくしていてくださいね?」

「大人しくしているようにと言われましても……私も参加したいわ!

 ジョージア様は、色々面倒ごとがあるから向こうの方に出てもらいましょう。

 忙しくなるね!」



 私は、デリアとニコライに笑いかけると、二人とも呆れかえっている。

 でも、楽しいことが大好きな私は、止められても張り切ってしまいそうであった。

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