第195話 町々に村々に

翌日、他の町や村にも足を運ぶ。

少し遠いので馬を使っていくことにした。




「どこも同じね……」

「そうですね……」




どの町に行ってもどの村へ行っても、同じだった。

昨日見た町と同じことが起こっている。

口には出せなかったが、うんざりした。

でも、これが領主一族として目を背けるわけにはいかない現実だと思うと、眩暈を起こしそうだ。

それでも、この領地で残って生活をしてくれている領民がいることに感謝しないといけない。

彼彼女達がいてくれたからこそ、私は、3年近くのうのうと生活ができてきたのだから……

恩返しではないが、正常な領地運営に戻さないといけない気持ちの方が大きい。

また、父や母にそういう風に育てられたからだろう。

フレイゼン領地に住む領民に慕われていた父を、私は、誇りに思える。




「あの……すみません」

「あぁ、どこかから来た人かい?」

「はい。

 あの、この辺のこときかせてもらってもいいですか?」

「あぁ……いいよ。

 今日は、もう何もないから!」




私達は、村の真ん中にある噴水の近くで腰を掛けておばさんに話を聞く。




「お名前伺ってもいいですか?」

「私のかい?私はメルっていうんだ。

 この土地で麦農家をしている」

「今年は、収穫どうですか?」




メルに話しかけるセバスは、やんわり笑いかける。

すると、メルに少し警戒されたようだ。



「あぁ、今年は、豊作とは言えないけど、暮らすぶんにはね……

 ただ、年々畑は細っていって、取れる量も少なくなる一方だ」

「他の農業もしてるんですか?」

「いや、うちは麦だけだよ。需要があるからね」

「他に何か収入源とかあるんですか?」

「全く……

 あっ!去年の冬から春に向けて、カゴバックっていうの?

 あれを作ったら、領主の奥様が買い上げてくれて、あれはありがたかったよ!

 ああいうのなら、私でもできるからね!」

「カゴバックを作られてたんですか?」

「あぁ、見てみるかい?

 結構、お金も弾んでくれてね!家計も助かったってもんだい!」




ちょっと待っててと、メルは自宅にカゴバックをとりにく。




「これだよ!

 作ってくれた人は1つ自分用にって言ってくれたからもらったんだ。

 どうだい?上手だろ?」

「メルさんとっても上手だね!

 これ、って……」




チラッとニコライを見上げる。

それは、私とニコライはよく見たものだ。

なんせ、売っていた本人なのだから……

確かに、カゴバックは、広告塔がよかったのか一瞬でなくなってしまった。

特に貴族やお金持ちの子女に作ったものは、飛ぶように売れて行ったのだ。




「それは、確かちょっと高値で売ったものですね!

 この方が作ったものだったんですね!」

「ん?どういうことだい?」

「このカゴバックは、大量に作られた中でもとても上手にできていて、

 飾りも綺麗だったからお金持ちように売り出したものなんですよ!」

「本当かい?

 隣の奥さんが、あんたよりずっともらいが少なかったって文句言ってたんだ」

「作ってもらったカゴバックは、段階的な金額をつけて売っていたんだ。

 あんたのそれは、少し高い金額で売ったから、手元に入るお金も多かった。

 それだけのものを作ったってことだ!」




メルは、褒められたことを嬉しそうにしていた。




「今年も、こんな手仕事を回してくれないだろうかね?

 公爵様の奥様は、私らにとってはありがたい人だよ!」

「じゃあさ、おばさん。

 公爵夫人が、手当出すからこの辺を綺麗にしてくれって言ったら、

 手伝ってくれるかい?」

「そんなことでいいなら、するさ!

 それでお金がもらえるならね!!」




ホクホク顔のメルを見て、私は、少し嬉しくなった。




「それにしたって、あんたたちは何もんだい?」

「僕たちは、アンバー領とはどんなところか見て回っているものだよ」

「こんなさびれた領地なんか見たってしかたないだろ?

 人は減るし、作物も育ちにくい、領主に見捨てられたような土地なんて!」




私達は、返す言葉がない。

貴族であったり、それなりの生活をおくれているのだから……




「まぁ、どんな人か知らないけど、公爵様の奥様に期待しているよ!

 子供が生まれたとかなんとか聞いているけどね!

 金遣いが荒いって話だけど……私たちにもこうしてくれるんだ。

 ありがたいはなしだよな!」

「金遣いの荒いのは第二夫人であって、公爵夫人じゃないよ!

 公爵夫人の生活は、なるべく質素なんだ」

「よく知ってるね?

 会ったことがあるのかい?

 どえらい別嬪さんだって話も聞くから、私も、会ってみたいんだけどねぇ……」




本人目の前にして、どえらい別嬪さんと言われ私はどきどきしてしまった。

ウィルは、絶対笑っているだろう。

小刻みに揺れている。




「あぁ、会ったことあるよ!

 アンバー領のことを今は勉強中みたいだね。

 僕みたいな商人を屋敷に呼んで、領地のことを聞くんだ」

「へぇーその奥様に是非、公爵様へ喝を入れてほしいもんだ!」




そこまで話すと、やっとメルは豪快に笑った。

きっと、本当は、こうやって豪快に笑う人なんだろうと思う。

それをできなくさせているのは、私達貴族側に問題がある。




「メルさん」

「メルさんだなんて!

 おばさんでいいよ!可愛いお嬢さん!」

「可愛いお嬢さんだなんて!」




バシンっと思わずメルの太い腕を叩いてしまう。

いててて……としている。




「ごめんなさい!メルおばさん!」

「いいのいいの!

 びっくりしただけだから!

 名前、聞いてもいいかい?」

「私?名乗ってなかったね!

 私、アンナ!

 メルおばさん、また、メルおばさん訪ねてきてもいいかな?」




そうすると、とても驚いていた。




「こんな可愛い子が私をかい?」

「うん、また、会いたいわ!

 この辺のお話とかいろいろ教えてほしいの!」




目尻に光るものを拭い、メルは喜んでくれた。




「こんなおばさんに会いたいだなんて!

 嬉しいね!また、来ておくれ!」

「必ず来るから!」




私達は約束をした。

今度会うときは、改革の始まりのときかもしれない。

でも、メルには、もう一度会いたい、そう思わせるそんな素敵な女性であった。

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