第194話 大きな地図

「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませ、奥様」



 屋敷で出迎えてくれたメイドに奥様と言われる。

 公都の屋敷では、奥様と呼ばれることがないので、なんだかくすぐったい。




「お食事は、どうされますか?」

「どうする?」

「俺は向こうでとるからいいよ!」

「僕たちは、いただいてもいいかなぁ?」

「僕は、お食事が終わるまでお待ちしてます。

 父も家で待ってくれているので!」




 それぞれの返答を聞き、帰る場所のあるウィルとニコライのことを考え先に話し合うことにした。




「食事は、後にしてもいいかしら?

 少し、友人たちと今日の話がしたいの」

「お茶などは……」

「うーん、いらないわ!」




 それだけ伝えて、私達は、用意された女主人の部屋である私の部屋へ移動する。




「ただいま、ジョー!

 ナタリーもただいまぁ!」




 部屋に入ると、あたたかく迎え入れてくれるナタリー。

 エリックは、先ほど領地を出て、公都の屋敷に向かってもらったので、ここにはいない。




「アンナリーゼ様、おかえりなさいませ!

 お顔がすぐれませんね。

 その様子だと、外は、大変でしたのね……」

「まぁね……

 私が予想していたよりはるかにって感じかしら?

 今からその話をするから、ナタリーも入ってくれる?」

「もちろんですとも!」




 そういって、みんなが座る様に準備を始める。

 侍女と遜色ない働きをするナタリー。

 本当に、貴族の娘なのか、疑いたくなるほど甲斐甲斐しいのだ。


 チャギルは、そんなナタリーの姿を見ることもなく離婚したんだろうな……

 ホント、もったいないよ!!と思った瞬間に、あぁ、チャギルは離婚したくなかったんだっけ……?と心の中で思いながら、ナタリーが怖いので口には出さないでおく。




「みなさん、汚いので……とりあえず、そっちの部屋で着替えてきてください!

 ジョー様によくないですからね!」



 そういって、男性陣を追い出してしまった。

 それぞれ何着か服は用意してきているので、着替えて戻ってきていた。



 私も別室へ追い出され着替えさせられたのだ。

 ジョーのご飯の時間だが、ばっちぃ私では、ダメだと言われ入浴後にということになった。

 戻ってきたころには、ウィルに抱っこされて喜んでいるジョーを見て思わず微笑んでしまう。




「地図、借りてきました!あと……」




 机の上に置かれたのは、大きい領地の地図と管理簿3冊と領民からあがってきている要望書をまとめたものだ。




「なんて言って借りてきたの?

 奥様が、領地のこと全然知らないから知りたいと申しているので、過去の分で構わないから

 管理簿を貸してくれっていったら、トーマスは、すんなり貸してくれました」

「私、馬鹿だと思われてる?」

「いいじゃねーか?

 それで肝心のものが手に入ったら!」

「アンナリーゼ様、ざっと目を通してみてください!」




 ウィルを一睨みしてから、セバスに言われた通り、管理簿1冊を手に取ると読み始める。

 すぐに見つけた。




「ここ、違うわ!」

「どこです?」

「災害がおこったけど、特に被害はなかったと書いてあるけど、

 確か決壊が起こったので修復のためお金が必要だって書いてあったはず!」




 読み進めて行くと、どうもあやしい文面を何個も見つけていく。




 これを書いているのは、トーマスという領地管理者だ。




「あやしいですね。

 確か、今日も町まで行くのに直されていないところもありましたしね……」

「そうね。何か、やっぱりおかしいわね?」

「どういう風におかしいのですか?私ついて行っていないので……」




 私は、今日見てきたこと、ビルと話したこと、感じたことをナタリーに話していく。




「そういえば、エリックが公都のお屋敷に向かうと言って出ていきましたが、

 そういうことだったのですね?

 明日も私は、こちらにいますので、少し探ってみますね!」

「ありがとう!

 でも、あんまり無理はしないでね?」

「当たり前です!ジョー様が一緒にいるのにそんな危険は冒しませんよ!」




 そういって、ナタリーは、ウィルとセバスを睨んでいる。




「いや、俺たちもそうそうしないって!

 姫さんもちゃんと止めておくから!」




 隣でセバスも激しくコクコクと頷く。




「それで、急務としてしないといけないのは、町の清掃と領民の生活向上ね。

 町を綺麗にしないと……今のままでは、夏になると病が多く発症しそうよ!」

「あとは、食扶持を稼ぐための仕事ですね!」

「仕事は、姫さんの箱庭計画を手伝ってもらったらいいんじゃないか?

 冬になれば、農家も少し時間があるだろ?」

「そうね、それがいいかもしれない。

 女性に町の清掃、男性に治水工事とか道路整備を手伝ってもらえればいいわね!

 あと、その間、子供を見てくれる場所とかあれば、日払いの賃金で食べる分くらい

 稼げるかしら?

 あとは、カゴバックをまた作ってもらうとか?」

「姫さんが去年作ってたやつ?」

「そうよ!あれ、結構いい値で売れたのよ!

 作ってくれた女性たちには、少しばかりだったけどお金を渡したわ!

 それだけでなく、何かもっと考えないといけないのだけど……」




 私達は、自分たちで考えうることを話し合い、記録を取っていく。

 まずは、今日行った町に必要なことを書き入れていく。



 必要なものは、人手。

 それなら、街中に余っている人を使えばいいのだ。

 日銭なら、それほど大金を払うことはないので、生活に困らないよう手助けできるだろう。

 その日銭で、食べるものを買ってもらえば、少しアンバー内も活気づくのではないか……浅はかではあるが提案する。





「15歳以下の子供は、働かせない。

 預かった子供は、ただ遊ばせておくのももったいないから、少し文字を書く練習とか

 させてみましょうか?

 今後、学都のようなこともしたいのだから、勉強にも興味を持ってほしいわ!」

「姫さんから勉強なんて言葉か出るとは……

 俺、今ほどハリー君に大声でよかったな!って言ってやりたい気持ちしかないよ!」

「おバカで悪いわね!

 みんな頭、いいですもんね!」




 むぅーっと頬を膨らませると、一同本当におかしそうに笑う。

 この笑顔が、あの町でも見れる日が来るよう私は努力しないといけない。




「私、帰ったら、すぐに夜会に出るわ!」

「夜会ですか?」

「そう、夜会。

 今、私は、なんて言われているか知っているけど、出ないわけにはいかない

 そんな気がする。

 イロイロとあの場所でもぎ取ってこないといけないものがある気がするの!」




 一同は、暗い顔になる。

 私のことは、噂になっている。

 『見捨てられた公爵夫人』として……

 そんなことで、私が下を向くと思ったら、大間違いよ!




「私、アンバー領に笑顔を戻したいわ!

 せっかくのご縁で、来たのだから、見て見ぬふりはしたくない!

 だから、協力してね!!」




 仰せの通りになんて、茶化されたが、みんなには、私の気持ちが伝わったのだろう。

 私をきちんと見てくれている。



 頑張るわ!私だってみんなに笑ってほしいもの!



 明日の予定を決めて今日は、解散となった。

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