第131話 いよいよ

 2つのドレスを眺めている。

 1つは、もちろんウエディングドレスだ。


 ジョージアのセンスがうかがえる一品で、私もとても気に入っている。

 薔薇の総レースは、やはり、私の貧相な上品さの底上げをしてくれるような気がする。


 ふふふ……


 私は、柔らかい笑顔が、自然に浮かんでくる。



 その隣に、もう一つドレスがある。

 お色直し用のドレスで、私が一目惚れしたのだ!


 薄い桃色の生地で柔らかい雰囲気をもち、その上に青薔薇の刺繍がされているのだ。

 甘い中にもピリッとした、子供っぽい可愛らしい雰囲気と大人の凛とした雰囲気を併せ持つドレスになっている。

 薔薇もセンス良く刺繍されているので、決して甘さを消してしまうことなくとてもバランスの良い出来だ。



 まさに、『私』そのものだ。



 子供であった私は、明日の結婚式より公爵夫人として貴族では一目置かれる立場となる。

 これからは、そうそう下手なことは、できなくなる。

 まぁ、そんなに下手なことはしないつもりだが、母も義母も私の手本となってくれるので心強い。



 アンナリーゼ・トロン・フレイゼンは、今日をもって終わる。

 明日からは、アンバー公爵家の一員となるのだ。


 明日という日を迎えるのに不安もあるが、明後日からは、公爵夫人として、公爵家を盛り立てられるよう頑張ろうと、心新たにしているところだ。




 そのとなりのサイドテーブルには、義母から託されたアンバーの秘宝とジョージアが私のために作ってくれた青薔薇の宝飾品が置いてある。



 どちらも私にとって、とても大事なものだ。



 アンバーの秘宝は、代々の公爵夫人が受け継いできた『公爵夫人』としての矜持だ。

 私もその一員と認められたことが、まず、とても嬉しい。

 そして、ジョージアの瞳と同じ蜂蜜色の秘宝は、つけているとなんだかホッとする。


 隣にある、サファイアでできた青薔薇の宝飾品たち。

 これは、ジョージアの卒業式のときにもらったものだ。



「私、この宝飾品が一番好きなのよね……」



 サファイアの薔薇たちを撫でると、耳元で真紅の薔薇のチェーンピアスが嫉妬でもしたかのようにチカっと光ったように感じた。



「あなたのことも、もちろん大好きよ!

 いつも、守ってくれてありがとう!」



 そういって、真紅の薔薇のチェーンピアスを撫でると喜んでいるかのような気持ちになる。




 ちなみに、ジョージアは、私のリクエスト通りのシルバーのフロックコートをウエディングドレスのときに着てくれるらしい。

 一度、衣装合わせをしたときに見せてもらったが、とっても似合っていたので、明日の本番も楽しみだ。



 もう一つは、ショート丈のタキシードを着るらしい。

 こちらは、当日までの秘密だとかで、まだ、見ていない……

 でも、ジョージアのことなので、私のカラードレスに合わせてくれていると思う。

 ジョージアのセンスは、もちろん疑う余地もない。



 応接セットの真ん中のテーブルに置かれているブーケも、私達らしいものをということで、青薔薇を中心に作ってもらった。

 これも、とても素敵だ。



 マリアベールも今広げてかけてあるので、月光で光っていて綺麗だ。

 見事な刺繍が、私は、とても気に入っている。



 これだけの衣装を見ているだけで、心がはやる。




 明日は、とうとう、ジョージアとの結婚式なのだから……




 緊張もする。

 不安もある。



 でも、これからのジョージアとの生活がとても楽しみでもある。



 たとえ、未来が、悲しいものになったとしても、辛くなったとしても……



 ジョージアとの時間を一瞬一瞬大切にしていきたいと思えた。






 コンコンと扉がノックされる。



「どうぞ!」

「アンナ、いいかな?」



 ジョージアが、部屋に入ってくる。



「もちろん、いいですよ!」

「何してたの?」

「今ですか?

 明日の結婚式で着る衣装を見ていたんです。

 ジョージア様も見てください!

 とっても、素晴らしいですね……

 私がこれらを身に着けられるなんて、感慨深くて、とても幸せです。

 ジョージア様、ありがとうございます!

 これからも、よろしくお願いします!」



 淑女の礼をもって、ジョージアにお礼とお願いする。



「こちらこそ、よろしくお願いします。

 アンナとこうして並べるとは、卒業式の日には、思いもしなかったよ。

 俺の方こそ、選んでくれてありがとう」



 そして、抱きしめてくれる。



「明日の今頃は、俺の奥様ですが、アンナさん?」

「そうですね?

 でも、今までと特に変わることなく、ジョージア様と一緒に過ごしていきたいです」

「うーん。

 俺は、もう少し仲良くなりたいけどね……」




 ちょっと困ったような顔をしている。




「ふふふ……そうですね……

 考えておきます。明日中には……」

「ありがとう……」




 自然と唇が重なる。

 もう、私も真っ赤になることもなくなってきた。



「アンナは、キスだけだったら、もう真っ赤にならなくなったね。

 あれは、あれでかわいかったけど……」




 うるさいですよ!という代わりに、私は、ジョージアに再度キスをねだるとしてくれる。




「はぁ……早く、明日になればいいのにね?」

「結婚式、楽しみですね!」

「そうだね、でも、そのあとも、アンナと一緒だから、楽しみだよ」



 もぅ!っとバシンと叩くと、いたたた……と大げさにジョージアは騒ぐのである。




「ずっと、一緒だからね」

「そうですねー」

「なんか、冷めてない?」

「そんなことないですよ!!

 ほらほら、明日は、早いんですから、もう寝ましょう!

 今日もこっちで寝るのですよね?」

「あ、あぁ……お邪魔します……」



 私は、ベッドにのぼって、ポンポンと叩くとジョージアが横に来た。

 そこから、朝までゆっくり休むのであった。






「おやすみなさい、ジョージア様」

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