第132話 結婚式 ~ 結婚式直前の控室 ~

「綺麗だね……」



 涙ながら、鏡越しに私を見ているのは、父である。



「感慨深いよ……ホント、アンナは綺麗だ……」



 さっきから、ずっとこの調子だ。



 そろそろ、お母様帰ってきてくれないかしら……



 母は、義母とおしゃべりに夢中で、しばらく帰ってきていない。



 さすがにお父様に優しくしてあげる余裕は、今ないわ……




 本日、主役である私。




 先日、義母から継承されたアンバーの秘宝を見ている。



 ジョージアの瞳を連想させるようなトロッとした蜂蜜のようなそれらは、出番はまだかと問いかけてくるようだった。

 アンバーの中には、蜂が入っているものと花が入っているものがある。


 アンバー公爵家を象徴するアンバーの秘宝を結婚式では、必ずつけることになるので、机の上に並べているところた。



 どれもこれも、大きい……



 アンバーは正確にいえば、宝石ではない。

 だから、とても軽いので、大ぶりの宝飾品だとしてもそれほどつけていることには気にならないはずだ。

 それに秘宝っていうだけあって、アンバーの秘宝は、最高級のアンバーのため太陽の光を浴びると青く光ると義母に教えてもらった。


 太陽の光がさんさんと入る大聖堂での結婚式には持って来いなのかもしれない。



 いつもはデリアが手伝ってくれるのだが、今日は来客対応に借りだされているため、ここで私を手伝ってくれる人はいない。


 父は、見ているだけなのだ。


 私は、自分で身につけられるところは、つけることにした。


 大振りのピアスをまずつけた。

 ネックレスは……ちょっと無理そうなので、母が帰ってくるのを、待つことにした。

 髪飾りは一人ではつけられないので、手伝ってもらってすでについている。

 手袋の上からブレスレットを両腕につけた。


 あとは、ブローチ。

 悩んだ末、左腰のドレープの端にアクセントとしてつけてみた。

 あのデザイナーの描いた通りの位置だ。

 白い花の芯になったかのようで、可愛らしい。



 ちなみにこのブローチが、家紋である蜂の入っているアンバーだ。



 これでいいかしら?と鏡の前で眺めている。



 このウェディングドレス、お金が……だいぶかかっているので、ものすごく着心地がいい。


 それに、みんなが褒めてくれるし、私もこのウエディングドレスを着ると『可愛らしい花嫁さん』になっている気持ちで、嬉しいような少し気恥ずかしいような感じだ。




 せっかくなので、私は、サムシングフォーにもあやかることにした。



 サムシングオールドは、母が父からもらって大事にしていたリボンだ。

 髪飾りとは別に結んでもらった。

 母にねだると、ちょっと嫌そうだったけど、結婚式だけなら……と、渋々貸してくれたのだ。

 リボン1つでもわかるように、母は、本当に父への愛情深く大好きで仲がとってもいい。



 サムシングニューは、このドレス。

 この日のためだけのものだ。

 総レースの柄はもちろん、薔薇である。

 ジョージアが、こだわりにこだわった逸品だ。



 サムシングボローは、エリザベスが結婚式で使ったグローブ。

 エリザベスにも貸してとねだったら、私のを使ってくれるの?とふたつ返事だった。

 実は、イリアも私より先に結婚したのだけど、ハリーとのことを考えると……

 うん、みなまで言うまい……


 エリザベスは、快く貸してくれるって言ったのに、兄が何故か女々しかった。

 そのあと、めちゃくちゃエリザベスに叱られていたっけ……

 何が、ダメだったのだろうか?

 私とエリザベスは、義姉妹であるが、仲の良い友人でもあるのだ。


 有無を言わさず、エリザベスは兄をはねのけ貸してくれたのだろう。

 我が家の女性陣は、強い傾向があるようだ。

 衣装合わせのときに母が預かってきてくれていた。



 サムシングブルーは、青薔薇のピアス。

 ジョージアの卒業式でもらった想い出深いピアスだ。

 新しいのをと言ってくれたが、私は想い出と共に……と言うと、ジョージアの方が、嬉しそうだったのを思い出す。

 きっと、ジョージアも、あの卒業式は特別に思ってくれているのだろう。

 それが、また、私の恋心をくすぐるようで嬉しい。



 なんだかんだといいながら、この1年、ジョージアとは仲良く暮らして来れたと思う。



 私、相当、ジョージア様に甘やかられてたのよね……なんて思っていると、やっと母が部屋に戻ってきた。



「お母様、ネックレスつけてくれますか?」

「えぇ……いいわよ!」



 ほとんど完成した花嫁衣装の私を見て、母も感激してくれているのだろうか?



「はい、できた!」

「ありがとう!」



 少し、親子3人で談笑していると兄とエリザベス、クリスが入ってきた。

 クリスは、また、少し大きくなったようだ。

 兄に抱かれてスヤスヤと眠っている。



 もう、そろそろ時間だと父が結婚式の会場に向かおうとする。

 今日は、式場までとジョージアの元までは、父のエスコートだ。

 母は、羨ましいそうにしているが……

 そこは、娘に「あえて」譲ってほしい。





「お父様、お母様、そしてお兄様……」



 呼びかけられた3人は、私の方を注目する。



 ふぅ……と、1つ息を吐く。



「お父様、お母様。

 今日まで、育ててくれてありがとう。

 何より、お父様とお母様の子供として生まれて、私は本当に幸せでした。

 まだまだ、至らない娘ですが、これからもどうぞ、ご指導の程よろしくお願いします」



 両親は、お互いの顔を見合わせてから、私に微笑んでくれる。



「当たり前でしょ?アンナ」



 私も両親にニッコリ笑顔を返す。



「お兄様。

 お兄様の妹で、本当によかった。

 いつも、いつも支えてくれてありがとう」



 兄の目には、涙が浮かんでいる。



「アンナ……」



 3人の顔を見て、私は微笑む。



「私、お話した通り、私の人生を進めていきます。

 わがままを聞いてくれて、ありがとう!

 ただ、あの頃、見た『予知夢』とは、違う出来事もたくさん起こっているの……

 だから、私、決して生きることを諦めていないわ!

 今まで、こんな私を信じて、導いてくれて、本当にありがとう!」




「そして、エリザベス!

 これからも、友人として、義姉として、どうぞよろしくね!

 お兄様も、フレイゼンもお願いします!」



「任せておいて!」



 もうすっかり侯爵夫人らしく、エリザベスは返事をしてくれる。




「お父様、お母様、お兄様、そして、エリザベス。

 本当にありがとう!!」



 再度、家族にお礼を言うと、とうとう兄が泣き始めた。



「サシャ、涙はまだ少し早いんじゃない?」



 クリスを抱いている兄の代わりにエリザベスが自分のハンカチで兄の涙を拭っていく。

 本当にお似合いの夫婦になったなと、私は、嬉しく思うのであった。

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