第46話 今日のダンスは長いようです。

 話をしていたら、学園付きの侍女がジョージアへ近寄ってきた。

 そろそろ祝賀会の開会の言葉があり、そのあと上位貴族から3組が1組ずつファーストダンスを踊るらしい。

 今年、その1番手はジョージアなのだ。



「では、行きましょうか? お姫様」



 ジョージがお誘いの手を出して来たので手を添え、ホールの近くへと移動する。

 次、名前を呼ばれたら、ホールの真ん中で踊るのだ。



「緊張してる?」



 ジョージアに声をかけられるが、先ほどのジョージアの両親への挨拶に比べれば全くしていない。



「ジョージア様のご両親に挨拶する方が緊張しました……今は、全くしていません。

 ジョージア様がパートナーなのでする必要もないのでは?」



 少し意地悪く返事をし、確認するよう上目でジョージアを見た。

 ジョージアもこっちを見ていて、悪い顔をしている。

 今までのエスコートからして、きっと、楽しいダンスの時間を提供してくれるのだろう。



「では、派手に動きましょうか?」



 ジョージアらしからぬ発言に驚いたが、そこで名前を呼ばれうんとジョージアが頷いている。

 私もそれに応え頷く。



「行こう! 俺の姫君!」



 誰もいないホールの真ん中に出て向かい合う。

 静かなホールで向かい合い見つめ合う二人を周りがじっと息を潜めて見守っている。

 すると音楽が鳴り響く。

 ゆったりとしたワルツだった。

 ジョージアのリードは完璧であり、それに体を預けていればいいだけだ。

 下手に逆らわない。



 ハリーと踊るより踊りやすいわね……そんなことを思っていると耳元で囁かれる。



「そろそろ、大輪の華になってくれるかな?」



 囁かれた瞬間、密着していたジョージアから体が離れ、華が咲いていくように体が大きく開き、ホールに1輪の青薔薇が咲いた。

 もちろん、繋いだ手は握りしめたままだ。

 ドレスが空気を含みふわっと広がると青薔薇の刺繍がより一層美しく見える。



 その瞬間、大きな拍手が鳴り響く、艶めかしいため息があちこちから聞こえる、悲鳴のような黄色い声まで聞こえてきた……

 ダンスってこんなだっけ……?そう思うと今度は引き寄せられ、元の位置に戻ってきた。



 ゆっくりリズムをとるはずのワルツの曲もだんだん早くなっていく……



 えっ?曲、変わってない!?



 一曲分踊り終えるのに他に2曲分の音が挟み込まれたようで、いつもより長く踊ることになった……




 次の2組目が呼ばれた頃には、ものすごい熱気が私たちを包んでいた。




「お疲れさま」



 そっと私たちに飲みものを差し出してきたのは、ハリーだった。

 ハリーも今日は正装しているのでかっこいい。



「ありがとう、ハリー」



 飲み物をを受け取ると、ジョージアにも渡している。



「ありがとう、ヘンリー様」



 二人は飲み物をもらい一息入れる。



「今日のファーストダンス、曲、長かったな?」



 ハリーから話を聞いてやっぱりそうかと思う。

 そう思ったころには2組目が終わったところだった。



「ほら、やっぱり、アンナたちが長かった」



 指摘され、確信することになる。

 大体、楽団の気まぐれで音楽は、決まったりすることもあるので、長くされることもあるし、短くなることもある。



「たぶん、アンナが華のように開いたときに指揮者がもっと見たいと思ったんじゃないか?

 ファーストダンスは自分では終われないからね……」



 ハリーの指摘の通り、ファーストダンスが途中で終わることはない。

 ジョージアは黙っていたが、赤薔薇の称号には、とにかく目立たないといけないので絶好の機会だったはずだ。



「ていうことで、次は僕と踊ってくれないか?」



 ハリーがダンスの申し込みをしてくる。

 でも、今日は、ジョージアから離れたくないような気がする。



「落ち着いたらいっておいで」

「わかりました。では、もう2曲後くらいでも大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。待っているよ」



 そういって壁際に3人で並んでいる。

 チラチラと視線がこちらに向けられ、私たち3人は、噂の的だった……

 中心は私だけど、なんだろう。ジョージアとハリーに挟まれて居たたまれない……



 3組目の兄達のダンスが終わったので、ホールに人が溢れてきた。

 さらに奥の壁際に移動して少しゆっくりする。



「それにしても、アンナの宝飾品は見事だね? 全部サファイアか?」

「そうなの!ジョージア様が私に贈ってくれたのよ!素敵でしょ?」



 ハリーに自慢する。

 ジョージアは私がハリーに贈った青薔薇たちを自慢しているのが嬉しそうにしていて、ハリーはよかったなとふてくされている。

 そんなハリーの頬っぺたを人差し指でつつく。



「今日はお祝いなのだから、そんな顔しない!」

「アンナには敵わないな……」

「じゃあ、そろそろ行く?」



 私もそろそろ落ち着いたので、ハリーとダンスホールに向かうことにした。

 ふと、振り返るとジョージアは私が贈った懐中時計を見ていた。

 なんだか、それだけのことが嬉しかった。


 ハリーとのダンスももちろん大盛況だ。

 先ほども聞こえた艶めかしいため息やら黄色い声やらも盛大に聞こえてくる。

 一緒にホールにでた人たちは、少し遠慮がちで私たちに進行方向を開けてくれた。



 今回も少し長いように感じていたが、ハリーは何も言わずに微笑んでいるだけだ。

 きっと、この1曲も長いのだろう。

 今日は、もう誰とも踊るつもりはないので、私はハリーとのダンスを目いっぱい楽しんだのだった。

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