第45話 祝賀会
祝賀会は、そのままパートナーにエスコートされることになっている。
会場に向かう途中で、卒業式に参加していなかった在校生とちらほら廊下ですれ違うのだが、みな私たちを二人を振り返っている。
今日は、何といってもジョージアの正装だ。
お兄様もなかなか良かったけど、まぁ、上の中くらいだろう……隣にいるジョージアに比べれば、天から見下ろしたときの小石程度だ。
兄に対してひどい扱いであるが、それが現実というものだ。
残酷なんだよ、現実って!
「アンナ、まず会場に入ったら君のご両親に挨拶に行くよ。
何度もお屋敷に伺っていたのに、挨拶がずっとできなかったからね……」
「わかりました。では、案内しますね。それと、気にしなくていいですよ?
父も忙しくて屋敷には夜中にしか帰ってきませんし、私も学園に入ったものですから、母も何だかんだとお茶会に参加しているので屋敷にはあまりいませんから」
事実はそうでも、ジョージアはずっと気にしていたらしい。
世間一般のご令嬢にしたら、卒業式のパートナーは重要なのだ。
重要どころの騒ぎではない。
『最重要事項』として扱われる案件であることは、エリザベスの気合の入りようから見てもわかる。
なんたって、『未来の旦那様』をみなの前で連れて歩くのだから。
でも、私は、表向き婚約者候補がいる方のパートナー。
周りから可哀想と取られても仕方ないし、わざわざ卒業式のパートナーを務めることに悪女と言われても仕方ない立場にいるのだ。
それなりに、私自身に浮き名は何個もあるので、今さら1つ増えたところでなんとも思わない。
周りがどんな風に思っているかわからないが、最終的には本当にこの位置に収まるのだから好きなように思ってもらって構わない。
ジョージアは、私たちの未来を知らないから、今日、パートナーに選んだことをそれなりに悪いと思っていてくれるのだが、兄も両親も納得しているのでそれでいいのだ。
「初めまして、侯爵様、奥方様。ローズディア公国アンバー公爵の息子ジョージア・フラン・アンバーと申します。
何度もお屋敷にはお邪魔させていただいていましたが、挨拶が遅れ申訳ございません……」
ジョージアを両親の元へ連れていった。
さすがに父は値踏みするようにしっかり観察している。
母は、それとなく見ているだけだ。
実はそれが父の値踏みより怖いのだが……
「本日は、卒業式のパートナーをアンナリーゼ様にご了解いただき参加できたこと、両親もとても喜んでいます。
この機会に巡り合えたこと、とても嬉しく思っております」
「こちらこそ、ご丁寧な挨拶をどうもありがとう。
アンナリーゼを君の記念すべき日に選んでくれたこと、こちらも嬉しい限りだ。
国は違えど、サシャとも仲良くしてくれているようで、今後も二人を頼むよ」
「いえ、こちらこそ二人にはよくしてもらっています」
父からの挨拶を受け、ジョージアは少しほっとしている。
「それから、サシャから聞いているのだけど、赤薔薇の称号を狙っているのだって?
それなら、ヘンリー君とアンナリーゼを踊らせないことだよ。
この二人、実に息がぴったりなんだよ……
会場の空気が変わるくらいには、審査員を虜にしてしまうだろう」
「ご忠告、肝に銘じます。サシャ殿との約束は必ずや成し遂げてみせます!」
「期待しているよ!」
「アンナ!ジョージア!もう、来ていたのかい?」
振り返ると兄とエリザベスがいた。
エリザベスは、見事に花のようなふんわりした薄い桃色のドレスで雰囲気にとってもあっている。
それに合わせた兄もなかなかだ。
「エリザベス、ドレス素敵ね!その宝飾品もとっても似合っていて素敵!!」
兄にそれとなく視線を向けると、すごく満足そうだ。
それ、私とティナがデザインしたんだけどね……お兄様、わかってるのかな……?
「アンナ、ありがとう! サシャ様がこんな素敵なものを用意してくださるとは、本当のところ思っていなかったの……
でも、本当に素敵で、見せてもらったとき泣いてしまったわ……」
お兄様、よかったねと訳知り顔の私は頷いて置く。
「お兄様って不思議な時に威力を発するのよね。タイミングよくお嫁さん捕まえられてよかったね!」
二人をからかってそういうと、真っ赤になっている。
今さらだ……寧ろ、来月からエリザベスがうちに住むようになるのだ。
私のちょっとした嫌味くらい、慣れてほしい。
「アンナ、それくらいにしなさい。サシャとエリザベス様が困っているよ?」
様子を見ていたジョージアが私を諫める。
うん、この人も宝飾品事件は知っているので、訳知り顔ではあるが祝いの席では無粋だと言われている
のだと頷きかえす。
「ごめんなさい。気を付けます」
大人しくジョージアの言葉に従った私に驚いたのか、今度は兄が食いついてくる。
「あのじゃじゃ馬が、ジョージアの一言で大人しくなるなんて……目の前にいるアンナは、本物なのかい……?」
この兄、失礼だ。
正真正銘のじゃじゃ馬な妹ですよ!と内心悪態をついているが、笑顔でかわしておく。
「サシャもアンナに対して、失礼だよ?正真正銘、君の妹だ。
俺が、フレイゼンの屋敷から連れてきたのだから!」
「冗談だよ。時折、アンナは、僕も見間違う程の令嬢にもなるんだ。
相手によって変幻自在だよ……」
4人は笑いあっているとだんだん会場に人が集まり出してくる。
「そろそろ、行くよ。俺の両親にもアンナを会わせたいんだ。また、あとで!」
そう言って、兄とエリザベスから遠ざかり、とうとうジョージアの両親への挨拶が迫ったのである。
「そんなに緊張しなくていいよ。普通の両親だし、君の話をしたら喜んでくれていたから!」
「それでも、普通に緊張はしますよ?」
そんな会話をしていれば、すぐにジョージアの両親の元へ着いた。
ジョージアに似た銀髪に蜂蜜色の瞳の公爵に優しそうなご婦人だ。
「父上、母上、連れてまいりました。
こちらが先般、お話した本日のパートナーのアンナリーゼです」
ジョージアに名前を言われ、背筋が伸びる。
淑女の礼を取りたいが人が多いので簡易的なもので挨拶する。
「ご紹介にあがりました、トワイス国侯爵家のアンナリーゼ・トロン・フレイゼンと申します。
お初にお目にかかれ、大変嬉しく存じます」
「おぉーそなたがアンナリーゼさんか、息子から話は聞いている。
息子が話している以上に可愛らしいお嬢さんじゃないか!なぁ?」
「あなた、アンナリーゼ様が驚いてらっしゃいます」
奥さんに脇腹を小突かれている公爵様は、うちの父とそんなに変わらない。
うちの父の方が、もっとひどいので、なんだか安心した。
「アンナリーゼ様、私はジョージアの母です。こちらこそお会いできて光栄だわ。
ジョージアに話は聞いていたけど、ホント素敵な方ね……
今日は、うちのジョージアが一人占めできるなんて、運がよかったわね?」
ジョージアに視線を向かわせるジョージアの母は、とっても優しそうな目をしていた。
「そうだな。本当についている」
そういって、ジョージアもトロっとした蜂蜜色の瞳を私に向け微笑むのであった。
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