第40話 全ての崩壊
正気を取り戻しかけていた森の守り神は、再び激しい苦痛に襲われた。
自分の内側から力が抜けていく様な感覚が起こっている。
「う、ぅぅぅぅうぐぅああああ!!!!」
急に頭を締め付けられるような痛みに襲われた。
それはどんどん強くなる。同時に、目の奥が貫かれるような激痛が加わった。体の力が抜けていく。
守り神の体を支えていた蔦が、ぶちぶちと千切れだした。蔦がなくなればもう守り神には何をすることもできない。
ダイジュから怨念のエネルギーを受け取れなくなる。
こうしている間も守り神の体から力が抜けていく。
そして自分を繋いでいた最後の蔦が、途切れて地面に落ちた。
「復讐を・・・!森を傷つける者に・・・制裁を・・・ッ」
守り神の四肢が震え始める。電撃が走ったように、光が暴発してあたりを埋めていく。
守り神の絶叫が響き、やがて終わった。
森は、いつもの風景に戻った。しわがれて小さくなってしまったあの大木を除いては。
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人間を襲い尽くしていたケダモノ達の爪や牙が、萎んで消えていく。その姿形も、見る見るうちに変化していく。
濃い体毛は抜けていき、手足は縮み、尻尾は内側に収まった。
ケダモノ達は人間のシルエットに帰っていく。
森の奥深くで、薄まった体で存在していた魂達は皆、人間に帰った体に戻っていった。
この一連の事件は、全ての偉い学者の目を白黒させるものとなる。
どれほどの歳月がたっても、ケダモノの謎を解いた人間は現れなかった。
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目が覚めた時には、アンズ一人だけが森の中で立っていた。
「私、決めたよ」
アンズは、皺だらけになって項垂れた『大木だったもの』に近づき、優しく撫で摩った。
涙が幹に染み込んでいく。
「あなた達を守るから」
アンズは街の姿を見下ろした。ビルやマンションから、煙が登っているのが見える。
徐々にサイレンの音が重なり合って聞こえてきた。今、どれほどの救急車がこの街を走っているのだろうか。
その時、幹の中から声がかすかに聞こえた気がした。それは、親友の声だった。
「・・・っ!マキ、そこにいるの!?」
アンズは幹を両手で掴んだ。拍子にささくれが指に刺さったが、痛みを感じている暇もない。
「ねえ、マキ!」
しばらく沈黙があって、またマキの声が聞こえた。
『マキ、ここよ・・・』
アンズは不審に思った。どう考えてもマキの声が、この幹の中からするのだ。
まさか、マキは、閉じ込められてしまったのか?
この木の中に。
「どうして・・・私、どうすれば」
アンズの心臓がまた爆発しそうなほど高鳴っていく。
「私はマキを救えなかったの・・・?」
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