・第37話 落とし穴

 アンズは目を開けた。

自分の身体が、蔦と枝で形作られた檻の中にあった。

手のひらに血が滲んでいる。服もところどころ擦り切れているようだ。

檻の向こうにはダイジュがいた。長椅子に長い足を組んで座っている。

「おや、もうお目覚めですか」

ダイジュの頭の宝石は優しい緑色だ。落ち着き払って、こちらを見下ろしている。

「改めまして・・・おはようございます。アンズ様」

見るとダイジュはティーカップを片手で持っている。紅茶を飲んでいるようだ。

「一体、何が起きたの」

アンズは呟く。

「あなたがここに来たのは私にとっていい機会でした。マキ様に隙を与えられて、こうして彼女を捕まえられたのですからね」

アンズは辺りを見回した。左斜めの方向に、誰かが柱に括り付けられて、宙に掲げられている。両腕と両足が、抵抗ができないように蔦で結びつけられている。

長い黒髪の少女。

「マキ・・・ッ!!」

アンズはダイジュに叫んだ。

「やめて・・・お願い、マキにこんなことしないで!」

マキのまつ毛に血が滴っている。胸のあたりにも赤いものが滲んでる。

マキの表情は見えない。まだ意識が冷めていないようにも思える。

ダイジュは幼い子供を宥めるように笑いながら言う。

「大丈夫ですよ。ここにあるのはマキ様の魂だけですから。傷をつけても」

そして片手を振り上げる。マキの肩に木の尖った先が突き刺さった。

「痛みを感じるだけですよ」

マキの肩から鮮やかな血がどろどろと腰のあたりまで流れていく。

「やめてぇぇぇぇええっっ!」

アンズの悲痛な叫び声が響き渡った。

「・・・ぁ、ぐ」



マキは微かに呻いた。

意識がぼんやりとしている。マキの右の方で誰かの泣き喚く声が聞こえる。

胸の辺りと、頭、それから、肩がじわじわと痛む。特に肩だ。

「あなた方には守り神がこの星を滅ぼすまでここに閉じ込められてもらいますよ。マキ様が守り神の邪魔をなさらぬように、力を削り取りながらね」

視界がぼんやりしている中、右肩に何か異質なものが突き刺さっているのは理解できた。

「どうして・・・マキがあなたに何をしたっていうのよ!」

マキは前方に目をやった。緑の宝石頭が見える。

「どうして地球を壊そうなんてするのよ!」

叫んでいるのは、アンズだとこの時気づく。

ダイジュのティーカップにピシリとヒビが入った。見ると、それを掴んでいた指は力の入りすぎでぷるぷると震えている。

ダイジュが苛立たしげに顔を逸らした。怒りをなんとか堪えているようだった。

マキはアンズに指を伸ばそうとする。


アンズ、だめ。

それは言ってはだめなの。


マキはアンズにそう言わなければならないと思いながら、やっぱり声を出すことができない。


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