・第35話 悪者


 目を開けると、アンズは全面が白い空間の中にいることに気付いた。

あたりをキョロキョロ見回す。何一つ存在しない、殺風景なだけの場所だ。

しかしそう思った瞬間、背後から声がした。

「一体何をしたのですか」

静かな低い声だ。

ばっと振り向くと、そこには何やら人ではない誰かが立っている。

「私のことは、ダイジュとでもお呼びください。それはさておき、質問に答えて欲しいですね」

アンズはダイジュの頭全体が赤く染め上げら得た宝石であることにまだ驚きを隠せず、声を出せない。

ダイジュが歩いてくる。3メートルほど離れていた距離が、ダイジュの一歩分で埋められた様な気がしたが、アンズは気のせいだろうと思った。

そんなこと、常識的にありえない。


「あなたはあの方に何をしたのですか」

ダイジュの声には微かな苛立ちが混じっていた。それを表に出さないように自分を押さえ込んでいる様にも思える。

「あの方は、苦しんでおられる。あなたのその、忌々しい光のせいで。あなたがあの方の内側に入ってこられるわけがないのです。何をしたのですか」

「・・・私はマキを取り戻したいんです」

アンズは、ダイジュを必死に睨みつけた。

ダイジュの宝石が青い色に染まる。アンズの身体中を嫌な予感が駆け巡った。

「人間にはもう何も奪わせはしない」

ダイジュが片手を振り上げる。すると、枝でできた槍が白い床をぶち抜いてアンズを貫こうとし始めた。

槍はアンズの足元からどんどん生まれてくる。

「うわっ!?」

よろけた拍子に槍に貫かれそうになり、アンズは白い空間内を駆け回る。槍はどこまでも瞬足で追ってくる。

ダイジュが槍を片手で操っているのが、アンズの視界の隅で見えた。

「こんなこと、やめて!話を聞いてください!」

「その光はなんなんだ!どうしてあの方を苦しめるんだ、お前達は私達から跡形もなく全てを奪うつもりなのか!?」

槍が10本に増加した。

アンズがなんとか追ってくるそれらを避け続ける。

「違う、私はあなたから何かを奪ったりしない!」

アンズが必死に叫ぶ。

槍が50本に増える。

 枝の葉がアンズの足元を掬った。大勢を崩し、ズサっと地面に倒れてしまう。

ダイジュがゆっくりと歩いてくる。そして、なんとか立ち上がろうとするアンズを、枝と蔓の檻に閉じ込める。

「さよなら」

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