・第34話 道標

 半分を語り終えたハルの口調が、厳しいものに変わる。なおもアンズの心に声が響いてくる。


木の計画は完璧だ。

ただ、木とマキの魂が融合してしまったことが、人類に最後の希望を生んだ。

マキの魂が木の怨念に打ち勝ち、再び自我を目覚めさせることができれば

森の守り神は、この場に存在することができなくなるという。


そしてマキの自我を目覚めさせる可能性は、彼女が最も大切に思っていた人間だけが握っている。


「アンズちゃん、あなたのことよ」

ハルの声が穏やかに、アンズの意識を包み込んだ。あたたかい声。まるで胎内にいるようだ。


アンズには、わからなかった。マキの自我を思い出させるだなんて、一体どうすればいいのか。

自分の肩に全世界の命がのしかかる。

しかし、もう迷いはしないと決めたのだ。

アンズの身体は、もう震えたりしなかった。


「アンズちゃん、目の前にマキちゃんに似た姿の神様がいると思う。その身体に接触して。呪いの力の込められたこの日記が、アンズちゃんを導いてくれるから」


こんなことになってごめんね。

その言葉を最後に、響き続けていたハルの声が止まる。

アンズの目に何故だか涙がじわりと滲んだ。


白い光はアンズの心臓のあたりを中心に、手足の先まで広がっていた。

それは血脈のように思える。アンズの生命を内側から際立たせている様だった。

「ハルさん、ありがとうございました」

アンズは駆けだした。今までで一番身体が軽いと感じる。

この地球をどうにかするだとか、人類を救うなんて大きなことよりも、目の前の身体の中に確かに存在している、愛しい人を助けるのだ。

自分さえも追い越して、マキに辿り着きたいと思った。


白い光が、森の守り神の気配に触れるーーー。

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