第19話 秋祭り

イブキの弟は三人いる。

みんな小学生で男の子である。もう成人済みのイブキからすれば怖いぐらいに元気だ。

「やつら、化けもんだぞ。山のように積んであったフライドチキンが一瞬で消えるんだ」

イブキは、さも恐ろしそうに言う。

しかし、理由があって一人っ子生活を強いられているハルからすると、少し羨ましい。


 ある秋の日だった。

誰が言い出したのかはっきりと思い出せないが、寮の庭を借りて手持ち花火をすることになった。夏用の花火が思ったほど余ってしまい、それを使いきりたいと言っていたイブキだったような気もする。

ついでにバーベキューもすることが決定し、各々が好みの具材を持ち寄り、集合した。

そこまで広くない庭だったが、六人には十分だった。昼間から次々と使われていく花火達。

昼にする花火というのも、逆に新鮮だった。

楽しい時間はあっという間に過ぎていった。ススキが揺れ、鳴くコオロギを夕日が照らし始めた頃、山ほどあった花火は半分ほどまで減っていた。

そして、月が出た。

ハルは手に汗を滲ませながら、震える肩を悟られないようにして縁側に座っていた。

完全体の丸い月を、これほど恐ろしいと感じたことはなかった。

隣に誰かが座った。顔をあげる。

「体調悪いのか?」

心配そうな顔つきのアスカがいた。

ほっとした。月はアスカの背後にある。

このままアスカが月を見上げなければいい。

ハルは天に祈った。もう自分から何も取らないで欲しいと願った。

しかし世界は残酷だった。

アスカが空を見上げる。

「満月だ」

その黒い瞳が、月を写そうとしている。

ハルはゾッとして、思わずアスカの袖をぐっと引いた。

そして体勢を崩したアスカの唇を、奪った。



思い出して唐突に頬に熱が集まってきた。

しかし、あれで良かったのだと思った。

「だって、アスカは月を見なかった」

それが、マキと自分への言い訳だということも、痛いほどわかっていた。




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