第18話 秘密
ハルは微笑んだままアンズに声をかけた。
「アンズちゃん、ここに来てよかったの?用事とかなかった?」
「は、はい」
イブキが口を挟む。
「けど、今日学校は?」
今日は日曜日なので、とアンズが答える。ほぼ毎日こたつにいるイブキは、曜日感覚がおかしくなっているらしい。
アンズは恐る恐ると言った様子で話し始める。
「…私、協会に行ってきた帰りだったんです」
アスカが興味深そうに尋ねた。
「お前、協会に用事なんてあったのか」
「うん…話をね」
全員が首を傾げた。
ハルがテレビを消し、部屋は一気に静まり返った。
「あの未確認飛行物体の中に、私の親友がいるんです」
イブキとハルは顔を見合わせた。
「始めは、何があっても親友を助けるつもりでした。助けられると思ってました。それなのに私、いざあの生き物の前に立つと、自分のことばかり考えてたんです」
俯くまつげがかすかに震えている。アンズが勇気を振り絞って少しずつ声にしているのがわかる。イブキはすうっと息を吸い込んで意識を集中させた。
この少女の今の気持ちには、自分への怒り、自分への嫌悪が強い。
そういうものを感じ取れ、受け入れられる人間に、心根の腐った奴はいない。イブキは以前からそう思ってきた。
「親友に会いたい、話がしたいんです。これから先、どれだけ辛くても苦しくても、マキを探すことだけはやめたくない」
アンズの震える拳をハルがそっと包み込んだ。ハルの瞳に涙が浮かんでいて、イブキはきょっとした。
「なんでお前が泣いてんだよ」
ハルは笑った。
アスカはただ黙っていたが、イブキには感じ取れた。妹の成長に、言葉が出ないほどの驚きと感動を味わっているのだ。
やがてアスカは力強く言った。
「よし、そういうことなら、一つ策がある」
イブキは、アスカの輝く瞳を見て小さく微笑んだ。
ーーーーーーーー
ぱたりと扉が閉まる。
一人きりの部屋は、静けさを掲げている。
帰っても誰もいないという感覚は、やはり少し寂しい。ハルはベッドのそばのタンスに近寄った。写真たてを手にとり、その中の少年を見つめる。
白い髪の少年。左下に小さく、コトと書いてある。彼のおでこに軽くキスをして、ベッドに入った。
今日初めて会ったアスカの妹であるアンズは、基本的に控えめで大人しく、アスカに似て嫌味のない子だった。あの後アスカは協会へ行ってしまったが、残ったイブキとハルとアンズは夕方まで三人で遊んだ。トランプ、人生ゲームをしたり、漫画を読んだりテレビを見たりした。楽しかったし、穏やかな気分に満たされた。今日もいい日になった。
この世の、最後のいい思い出だ。
そう思った途端、自分がアンズの親友にしたことが思い出されて、後悔の念に苛まれる。
アスカを守った“代わり“が本当にマキだとしたら、自分の責任だ、とハルはなおも自分を責め続けた。
全く眠気のない中、ハルはあの夜のことを思い出していた。
あれは、もう一ヶ月は前のことだったろうか。
みんなで秋祭りをした情景が蘇ってきた。
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