・第13話 不可思議な秘密
その薄い足を踏み外さないようにねと言われ、私がお婆さんに連れてこられたのは深い森だった。
至る所に落とし穴のような窪みがある。
空はあまり明るくないので油断していたら危ない。
茂みをかき分け、つたを引きちぎり、窪みに注意しつつあとについていく。
お婆さんは、滑るように先へ先へと行く。
まるで足がないみたいだ。長いスカートの裾も少しも動いていない。
「あの、どこにいくんですか」
遠ざかっていくお婆さんに、少し大きめな声で問いかけると、お婆さんは一瞬だけ振り返り、またするすると進んでいった。
私は本日何度目かのため息をつき、はぐれたくない一心でひたすら前へ前へと急いだ。
妙な気分だ。動かしているのに体が動く感覚がしない。あの木がある周辺はずっと暗いままだから、あれから何時間、何日経ったのかはわからないけど、どれだけ居てもお腹も減らないし喉も一向に乾かない。
疲れもないし、眠くもない。
最後のつるをちぎり、丸い原っぱに出た。
色とりどりに輝く星々が私を見つめている。
空ってこんなに綺麗だったのか、と思った。
見ると、お婆さんもそばで座り込み、星を見ていた。お婆さんは、私には目もくれない。
「あそこにあの子の仲間がいるのさ」
「あの子…?」
あの子とは誰か聞こうとしてやめた。
お婆さんの大事な人なのだろう。無神経な質問はしたくなかった。
しばらく柔らかい草の感触を楽しんでいたら、お婆さんがおもむろに立ち上がった。
見せたいものがある、と言われ、私はなんだか気味の悪い予感がした。
「あそこには、あんたの仲間たち」
お婆さんは振り返り、私たちの背後の暗い森、さっきまで私たちが進んできていた茂みに一歩二歩近づいて、指さした。
初めは、なんのことだかさっぱりわからなかった。しかし、草や木だと思っていたものが徐々に人の形を形成してきたように思え、私は一度瞬きをした。
再び目を開けた時、目の前に私と同じような体の薄い人間達が大勢倒れていた。
その中の一つに、ぐしゃりと圧力がかかったようにつぶれている人間がいた。
思わずぎゅっと目を瞑った。それはあまりにもグロテスクで、吐き気がする。
「この人は、ついさっき死んだのさ。あんたの前の世界で、一匹の龍が死んだからね」
お婆さんは相変わらず不可思議なことを言って前に向き直り、暗闇へと進んでいった。
私は呆然と立ち尽くしてひしゃげた人間を見つめていた。
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