◆第9話 葛藤

時々、自分は何をしているのだろうと思う時がある。


一種の虚無感というか、情けないというか。今はまさに、そういう気持ちだ。

「お疲れ様でした。それではまた明日」

一日の終わりに、党長に挨拶をする。

コトは、幸福善信党の巨大な丸い建物を後にした。

電灯を頼りにしないと、何も見えないほど辺りは暗い。党長兼幼なじみを家まで送ってあげたいのだが、彼女にはボディガードが付いている。

歩道沿いに立ち並ぶ木の葉がざわめいた。


ナミのやることを信じてそれについていく。思えば自分はいつもそればかりだったと思う。

理由もなく世界を怖がっていた幼い頃から、ナミはずっと自分にとってヒーローだった。ナミには辛いことも悲しいこともないように思えた。彼女には、人に「強い」と思わせる独特の雰囲気がある。

しかし、それは完全なる間違いである。

 コトは息をつく。

彼女の孤独を自分1人の力で癒してあげられれば、どれだけいいだろう。もしそうできていたなら、幸福善心党なんてものは初めから要らなかった。

コトのまぶたの裏側にナミが映っている。

今はまだいい。

ナミはまだ彼らを統制できる。なにか適当なことを言って煽り、危なくなればナミが宥めれば良い。ナミの承認欲求も満たされる。

 しかし何かがほんの少し間違えられて、彼らの怒りが爆発してしまえば大変なことになる。下手をすれば抗争になる。

求められれば応じてしまうナミのことだ。彼らが治安維持協会に刃を向けたいと言えば、彼らを幻滅させるのを恐れて応じてしまうかもしれない。

その時自分は、どうすればいい。

コトは足を止めた。


自分は一体何をしているのだろう。


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