・第8話 妖しい生命
木の根本に、しわがれた声のお婆さんが腰掛けた。それにならい私は隣に座る。
足の下で、大地から顔を出している黒茶色の根っこがほのかに発光している。
「質問しても?」
私はお婆さんに震える声で問うた。
いろんなことが急に起こりすぎて混乱していた。
とにかく誰かに何か、なんでもいいから説明してほしい。
「質問してもいいですか?」
お婆さんからの返答がなかったので、私はもう一度話しかけた、のだけど。
やっぱり返事がない。
「あ、あの…」
「足が薄いのはね」
お婆さんが口を開いた。
「この木が、あんたの養分を吸い取りだしてるからさ」
「…は、い?」
言葉が出ないとはこのことだ。いや、出てるけど。
風が嫌な音をたてる。背筋が冷たくなった。
その後、何度説明を要求してもお婆さんは何も言わなかった。
私も最後には諦めて、時間が経ったのか経ってないのか分からない真っ黒な空をただ眺めていた。蛍が鼻の頭に止まり、私はクスクスと笑った。
紫かと思えば赤く、赤いと思えば青くなるような蛍なんて、本当にこの星のものなのだろうか。そもそもこの幻想的な景色だってこの星のものという感じはしないということに今更気付いた。
太い老木の周りをまう蛍。ひかる根本。柔らかそうなのに、感触のすっきりしている葉。
妖しい。そう思った時、おばあさんが口を開いた。
「今、世界が大変なことになりかけているのを知っているかな?」
私は首を傾げた。
「えっと、そうですね。貧困問題、地球温暖化問題、新しい冷戦問題…その他にもいろいろと」
お婆さんは首を横に振った。
「もっと、もっと近くにあるんだよ」
それは、1人ごとのようにも聞こえた。
そしてお婆さんはゆっくりと振り返り、老木を凛とした目で見つめた。
「呪いだよ。この子の呪い」
のろい?
どういうことなのか、もっと詳しく聞いてみたかったが、お婆さんが木を見つめる瞳が恐ろしく見えて、私はそれらを見つめるほかなかった。
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