・第6話 マキという少女

 頭が痛い?いや、頭が痛いわけじゃない。

なんだろう、この感覚は。

何も見えない何も聞こえない、何にもわからない。どこか冷たい空間の中で寝そべっている。

頭がぎゅうぎゅう締め付けられる。

起きろ、と誰かに言われているみたいだ。

あんず

怖くなって親友の名を呼ぶ。だけど声が出ない。

私の体、どうしてしまったの。私は一体、どこにいるの。考えても考えても、わからない。

思い出せるのは、最後に見たあの年老いた巨木だけ。月明かりに照らされて、寂しそうに葉を揺らしていた、窓の向こうの景色だけだ。

あんず。あんずに会いたい。

私が心を許せるのは、母でも父でもない、もうずっと。

「…ず…」

口を開いてどうにか声を出そうとすると、生暖かい土のような圧力が入ってきた。

吐き気がして口を閉じる。

本当に、土の中だったりして。不安をごまかすように薄く笑ってみせた。

 その時、足の指がぴくっと動いて、私は、まさか、と思い力を入れた。

ぐっと足裏に力を入れて、膝を伸ばして背骨を真っ直ぐにする。

視点が、すうっと上がっていく。

「どういう、こと…」

私は、本当に土の中にいた。

というのは、立った瞬間に苔臭い地を頭が貫いた感触がしたからだった。

なんとか土の中から這い出す。茶色くてひんやりとした土を、腕や足からこそげ落とした。いったいどうして、土の中に体が?


 しかしその疑問は、目の前の風景に吸い込まれていった。


思わず目を見開いた。

紫色の蛍が空を舞っている。巨大な幹が、私の身長ほどの太さの木が、その光を受けて嬉しそうに葉を揺らしている。

鮮やかな苔が地面を彩り、薄暗い霧が神秘的な空気を作り出している。

これは、町一番の大木だ。私があの夜窓から見ていたのと同じ木だ。

大した根拠もないのに、なんとなくそう感じて、私は木に一歩近づいた。

触れたいと思ったのは、この妖しい美しさを自分の中に閉じ込めたいからなのか。逆に、自分自身が閉じ込められたいからなのか。

私は指で幹をつっとなぞった。湿った皮の感触が、指先を濡らす。

 その時、しわがれた声を聞いた。

「薄いだろう」

驚いて振り向くと、そこには私の半分ほどの身長しかないお婆さんがいた。

「薄いだろう、指も、足も」

優しそうなお婆さんは少し微笑んだ。

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