第5話 その目が大事なんだよ

近未来的な高層ビルが、一般的な住宅街の真ん中に居座っている様子は、どう見ても違和感しかない。

私達は特に会話をすることもなく、ビルの入り口を囲む緑の庭へと入った。ほんの少しの自然エリアのようなもので、それらが全て人工物だということは、一目でわかった。

 あと一歩で扉という所で、前を歩いていた兄の足が止まった。巨大なビルを見上げていた私は、広い背中にぶつかった。

兄は振り返って私の身長の分だけしゃがんだ。顔の距離が近くなる。

「アンズ、これからお前は、俺を含めここの役員達に色々と質問をされる」

「ねえ、それよりマキはここにいるの?マキに酷いことをするなら、私は何も話さない!」

兄は優しい眼差しを向けて、私の頭を撫でた。

「そうだ」

兄は聞こえないほど小さな声で呟いた。

「その目が大事なんだよ」

言っている意味がわからずに、眉を寄せると、兄は私の髪をくしゃっとして立ち上がる。

「萎縮するな。怖い大人達に詰問されても脅されても、その目を忘れるな。親友を助けたいならな。悪いが立場上アドバイスできるのはこれだけだ」

兄のさらさらした黒髪が、風になびいて揺れた。

「守りたいもんはお前が守るんだ」

綺麗と思った時にはもう、兄の足はビルの中に入っていた。


 入ると、つきあたりにカウンターの受付口があって、広い一階ホールの左右にのびている廊下、そしてカウンターの左右にエレベーターが取り付けられてあった。その内装は、アンズの幼少期によく通った病院のものに似ていた。

受付の女性が兄を横目で見ている。無理もない。妹の私でさえ惚れ惚れするぐらいなのだから。

 不安と焦燥を抱えながらエレベーターへ向かう。

兄はなんの躊躇いもなく一五階のボタンを押した。

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