第4話 アスカ兄ちゃん
「兄ちゃん…」
相変わらず表情のない、背の高い兄が私の後ろにいた。
「あれ?どっかの市に遠征に行くんじゃなかったの?」
姉の質問に、兄は私から目を離さずに答えた。
「…ここの治安維持部隊はここの治安を維持するためにあるんだ。厄介な問題が起こった時は帰ってくる。当然だろう」
目が冷たい。私の表情から、なにか情報を得ようとしているのだろうか。
兄、アスカは、この市の治安維持部隊、いわゆる武力行使可の警察のような組織に所属している。凶悪犯罪や、災害に対応し、私たち市民の安全を守る。
ただ最近は、目立った事件もなく、シンボルの青い制服を見ることは少なくなっていた。消防隊の制服によく似ている、カチッとした服を。
「アンズ」
自分の兄であるのに、冷たい目に貫かれて嫌な汗が流れる。
「お前は部隊に報告するべきだった」
兄の圧力のある言い方に、私は、マキが何か問題を起こしたのだということを確信した。
くらりとする。
マキが私から離れて、マキでなくなっていく。
代わりにその中で私の知らない彼女が、殻を破ってどんどん本当のケダモノになってしまう。
「あ、ぅ…あ」
足が震える。情けない声が漏れる。
そんな私から、兄は目を逸らした。もういい、と諦められたようで、胸が痛くなる。
「ナミ、お前は帰れ。アンズは遅くなると、母さんに伝えてくれ」
兄の言葉に、姉は少し残念そうにして公園を去っていった。
私も協会に行ってみたいのに…。姉は小声でそう呟いていて、私はその言葉に我に帰った。
今から、市で最も大きな建物に連れて行かれるのだ。マキのことについて質問され、探られる。
思わず唇を噛んだ。マキについて聞きたいのはこっちの方だ。
「アンズ、正直に説明したほうがお前のためだぞ」
動きやすそうなブーツを履いた兄の足が、ゆっくりと動き出した。私は更にゆっくりと、そんな兄についていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます