第2話 どこにもない影

ハッとして顔をあげた。

いつもの悪いくせだ、自分の考えにふけって、勝手に自己を世間から引き剥がしてしまう。完全に引き剥がせないところがまた厄介だ。そのせいで、私は現実に中途半端に傷つきながら思考を迎えることになる。

まあ、もう慣れたと言えばそうなのだけれど。

 公園に設置されている時計を見ると、もう午前1時を超える頃だった。

彼女には19時頃に私が家から持ってきたハンバーガーをあげていたが、それでもやはりお腹が空くようで。

切なげに犬のように親友が鳴く。

私はというと、お昼からなにも食べていないけれど全く食欲がない。

「マキ、お腹すいた?…そっか。ごめんね、早く帰りたいよね。みんなマキのこと待ってるよ」

この言葉は半分ホントだが半分ウソだ。

彼女の両親は、私に「養育費」というお金を払っている。

唯一彼女の近くに行ける人間が私だったことも理由としてはあるが、それよりはもっと深いところに理由がある気がするのだ。

みんな厄介役を私に押し付けたがっているように見えた。もちろん、私からしたら厄介役なんかじゃない。

かつてのことを思い出して自然と眉を寄せてしまった私を、彼女は心配そうな心細そうな目で見つめた。そして中身のない声を放った。

「あ…ごめんねマキ。あなたのことで怒ってるわけじゃないの。」

獣になりたての彼女は、遊んで欲しくて人間を襲おうとしたし、人懐こく、人間が好きだった。しかし、だんだん人間達が自分に敵意を向けていると気づくと、

彼女の心はどんどんと萎んでいった。私にはそれと同時に体も萎んでいったようにさえ見えた。

彼女は誰とも心を開かなくなった。自分が人間だった頃の記憶はないのだろうと直感的に感じた。

「クエエ…クエ、クエエエ…」

真っ暗な公園に不気味に声が響き渡る。

ちょうど公園の前を通りすがった人達の、異物を軽蔑するような声が聞こえた。

それを感じて彼女の声が大きくなっていく。

「グエ、グエええッ!グエエエエエ!」

彼女は人間が怖いのだ。

「大丈夫、大丈夫だから、落ち着いてマキ、お願い、ね?…お願いだから…落ち着いてよぉ…」

気がつくと私の目から涙がぽろぽろ溢れていた。どうして泣いてなんかいるんだろう。

彼女の声がどんどん大きくなる。

私はハラハラと涙を流した。彼女の毛むくじゃらの首にしがみ付いても、声が止むことはない。

ああ、私、不安なんだ。これからどうなるのか、怖くて怖くて仕方がないんだ。

「お願いだから、元のマキに戻ってよ!私、なんでもするから!あなたの代わりに獣にでもなんでもなるからぁ!」

そう叫んだ瞬間、私の思考の糸が、切れた。

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