第36話
「トロルのゼニスキーさんは『別の事件の犯人』です。この事件の犯人は今別の裁判室で裁判を受けている甲冑男のゴンさんがこの事件の犯人です!」
周りがシンッと静かになる。
「ナナホゥ……何を言っているのか分からないぞ。しっかり考えて物事を喋れ」
ツムラ―検事はそう言って検事席に座った。
パンプキン所長もこの時間なら裁判もある程度進んで詰まっている時間だろう。
「証拠を見せます。これは事件前日の映像です」
そう言ってあたしはスライム立体ビデオカメラのオルデラーンド神殿へのトロルのゼニスキーと甲冑男のゴンのやりとりの映像を再生した。
みんなその映像を見ている中でトロルのゼニスキーは汗をかいて震えていた。
予想外の事態だと思っていたようね。
ゼニスキーさん、悪いけど無罪には出来ないわ。
※
トロルのゼニスキーと甲冑男のゴンの二人が武器を渡して、町のことをそれぞれ別々の場所で殺すことを約束したようなやりとりの映像を見て視聴席のみんなが騒ぎ出す。
「おいおい、これって計画的な犯行ってやつじゃないか?」
「オードリとサンマリで別々に殺人相手を決めているような気がしたぜ」
「またあの異世界の弁護士の姉ちゃんがしでかしそうだぜ」
「トリカブトの槍って高価な武器だったはずだぜ。アーマーブレイカーソードも高価な武器だし、どっちも戦闘以外使い道無いよな?」
「ああ、だとしたら殺す相手の名前までは言っていないが計画犯行にしか見えないな」
周りが騒ぎ出し、ドラゴ裁判官は木づちを打つ。
「静粛に! 静粛にドラ!」
「ナナホゥ、これはトロルのゼニスキーはアンジュを殺さずにサンマリの町で事件を起こした可能性が高いと言う……」
ツムラ―検事が言い終わる前にあたしはしっかり前を見て堂々とした態度で答えた。
「はい、これは『交換殺人』です!」
交換殺人。
それはお互いの人間関係で恨んでいる人物をお互いが赤の他人同士で両方別々に殺す殺人方法だ。
通常なら殺人が起るとまず人間関係から誰が犯人かを絞り上げる。
だが交換殺人は殺したのは赤の他人で指示したのは恨んでいる人物なので犯人を捜すのは警察側では困難になる。
今回の場合はアンジュに恨みのあるトロルのゼニスキーは人間関係から面識もない甲冑男のゴンに殺人を頼み。
甲冑男のゴンはトロルのゼニスキーに恨んでいるもしくは殺したい相手を殺人に頼むようにする。
それで交換殺人は成立する。
これが交換殺人のおおまかな内容だ。
残りの決定的な証拠はゾン太郎さんとパンプキン所長の担当した殺人事件で犯人が見つかる。
ほぼ同じ時間帯で殺人事件が起きたのも交換殺人が原因だろう。
「オーク警察のゴン蔵さん。裁判を今受けている甲冑男のゴンさんと弁護士に検事をこっちの裁判室に呼んでほしいドラ」
「ハイ ワカリマシタ」
「やってくれたな……ナナホゥ」
「今回の裁判は無罪に出来ないあたしの負けですね」
「ふん、確実に犯人である相手の無罪を通さずに有罪で真実に近づくために負ける正直な弁護士か……個人的にはこっちには特に目立った出番も無くて、俺にとっては嬉しくない勝利だぜナナホゥ」
「なんと言われようと結構です。あたしは真実のみを証明するだけです」
お父さんが言っていた。
なんでもかんでも依頼人を無罪にすれば良いわけじゃない。
その言葉を思い出して、あたしはパンプキン所長達が来るのを待った。
この裁判は魔法使いのエリスの裁判と違ってすぐに終わるだろう。
そう思った。
※
しばらく時間が経って奇妙な裁判になった。
あたしの弁護士席の隣にパンプキン所長がいて、検事席にはツムラ―検事とエルフの耳の二十代くらいの検事が一緒にいた。
「あいや! 奈々子殿! こうなったということはあの映像を流したのであるな?」
「はい、オルデラーンド神殿の二人のやり取りを見せました」
「あいや! それなら後はこっちのサンマリ事件の映像を見せるのである! ドラゴ裁判官! サンマリの事件の映像を見せても良いですかな?」
「その前にこのサンマリ事件とオードリ事件に共通というか関係があるんですねドラ?」
「はい、あります!」
あたしはパンプキン所長の代わりにそう答えた。
「では、サンマリ事件の映像を見せて下さいドラ」
「あいや! 今再生するのである」
そう言ってパンプキン所長はあたしが持っている方ではないスライム立体ビデオカメラで映像を流した。
映像の中身はどうやら大きな部屋のようだ。
その中でもソファーに座っている上半身である体の半分が無くなっている老人らしき体格の死体があった。
「パンプキン所長、これは?」
「あいや! 死体はサンマリの町の長老であるワイズマン殿の死体である。槍で刺されたかどうかは不明なままなのである」
少し証拠が足りない気がするわね。
これじゃダメだわ!
「ナナホゥ、あの時見せたオルデラーンド神殿の映像は確かに怪しい……だがな、ワイズマン長老がトリカブトの槍に刺されたとは思えないぜ。すなわちただの思い込みで事件とは関係がないだろう?」
「ぐっ!」
痛いところを突かれたわね。
この映像の中に何か証拠があるのはずでは……?
「ツムラ―検事……それは……」
「ちょっと待つっす!」
「えっ?」
誰かと思えばいついたのかペンタゴン刑事が裁判所に出てきた。
「ワイズマン長老の死体の事件当日に確認をしたっす。その時は上半身は犬に食べられて無くなっているっす!」
犬に食べられた?
そう言えば映像の中に犬がいるわね。
あれ?
この犬も死んでいる。
何かあるわね。
「あのペンタゴン刑事……ちょっと質問いいですか?」
「答えられる範囲なら質問は大丈夫っす!」
「ワイズマン長老と犬の死体に何か……その、毒などはありませんでしたか?」
「いえ、体内までは調査してなかったっす」
「えぇ……そんなぁ……」
この刑事ダメダメじゃない。
普通解剖とかして調査するものなのに……。
まず体内に毒があるのは確かだ。
手遅れにならないうちに調べなければいけないわ!
「ペンタゴン刑事、死体はまだあるんですよね?」
「今犬と一緒に死検室で解剖しているっす」
死検室?
もしかして死検室って殺人事件が起きた人物を解剖して検査する部屋かしら?
聞くまでもないか。
「ではペンタゴン刑事。死体に毒があるかどうか急いで調べて下さい」
「それが事件と関係あるっすか?」
なんでそこでちょっと反抗的になるのよ?
「あいや! ペンタゴン刑事! 我輩からもお願いしたいのである」
「……分かったっす。オーク警察のゴン蔵殿と一緒に解剖室で毒があるか調べて見るっす」
なんかあたしペンタゴン刑事に舐められている気がする。
まぁ、いいわ。
今は裁判裁判!
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