第30話

「あの……どうしても昼までやらないと駄目ですか?」




「あいや! 申し訳ないが、昼の三時までかかる仕事なのでこれも弁護士になる経験だと思ってやってくれたまえ。細かい説明や疑問は我輩が答えよう」




「昼だけでも外に出てもいいですか?」




「何故であるか?」




「ちょっと気になることがあって、もしかしたら事件になるかもしれないので」




「それなら事件になる証拠はあるのであるか?」




 あたしはスライム立体ビデオカメラで映像を出した。




「ダヤンの廃墟が事件の場所になるかもしれないんです」




 立体映像が流れる中でパンプキン所長とゾン太郎さんは昨日オルデラーンド神殿で起った甲冑男とトロルのやり取りを見せた。







 立体映像が終わってゾン太郎さんは黙って手を激しくブラブラさせながら足を屈伸していた。


 パンプキン所長はその映像を最初から最後まで腕を組んで立って見ていた。




「ふむ……確かに興味深い内容ではあるが、まだ事件が起こってないのである。それで事件があると決めつけるのは良くないのである」




 パンプキン所長はそう言って書類を整理した。




「仕事があるのでまだあると決まった犯罪が出ない限りはここで掃除や書類整理などをしてからダヤンの廃墟に行けば良いのである」




「そんな……それじゃ遅いですよ!」




「奈々子殿、気持ちは分かるのだが今は仕事の方を優先してほしいのである。もし事件が起きてもこの映像のことは裁判で有利な証拠になるから消さないで保存しておくのである」




「奈々子さん。僕も一緒に手伝うから時間少しでも早めてダヤンの廃墟に行きましょうゾン」




「わかったわ……不安だけど今は仕事に集中するわ」




 あたしはそう言ってパンプキン弁護法律事務所の手伝いをした。


 嫌な予感が的中しなければいいと願って、ゾン太郎さんの説明など仕事をこなした。







 昼の二時に仕事が終わり、あたしはゾン太郎さんと一緒に外に出て、ダヤンの廃墟に着くまで走った。


 もちろんスライム立体ビデオカメラを持って外に出た。


 ダヤンの廃墟はゾン太郎さんのオードリの町の案内で知ったので道は正確に覚えている。




「な、奈々子さん。ちょっと待ってくださいゾン!」




 後ろであたしと同じく走っているゾン太郎さんの声が聞こえたが、走るのを止めなかった。


 途中騎士団の人達にぶつかったが、一言謝って返事を聞く前にダヤンの廃墟に向かって走った。




「奈々子さん! 待ってくださいゾン!」




 リュックサックを背負ったゾン太郎さんが後ろからあたしと同じように付いてくる。


 今はゾン太郎さんのペースに合わせている時ではない。


 一秒でも遅ければ殺人事件になるかもしれないからだ。


 あたしはそう思ってダヤンの廃墟に全速力で走った。







「はぁ……はぁ……」




 ダヤンの廃墟に着いた時にはあたしは顔に広がる汗をハンカチで拭いて息を整えた。




「つ、疲れたゾン」




 ゾン太郎さんもあたしの息切れが終わった頃に後ろから声が聞こえた。


 ダヤンの廃墟の劇場用ホールだった場所に寝ている人が見えた。


 遠くからで見にくいが、なんだか人形のようだった。


 あたしはその寝ている人のそばまで歩いた。




「な、奈々子さん。待ってくださいゾン」




 ゾン太郎さんもあたしの後ろからついて来た。


 人形のように寝ていた人は死体だった。




「っ!?」




 それは騎士の鎧を着た女性の死体だった。


 心臓の部分に神殿でみたアーマーブレイカーソードが胸に鎧ごと貫通して突き刺さっている。


 そこから血が流れていた。


 見たことのある顔をしていたが、その顔は青白く普段目にすることのない光景だった。


 死体を見るのはお母さんの葬式以来だったので吐き気などは起きなかった。


 しかし死体には日常で見かけないのでそんなに慣れなかった。


 死体の顔を見るとあたしは思わず声が出た。




「冗談でしょ? 何だってあなたが……」




「ひ、ひぃぃぃぃ! あ、アンジュ騎士検事の死体だゾン!」

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