第29話

「あいや! 奈々子殿! 食事中であったか?」




 囲碁を止めたパンプキン所長がやってきた。


 今日の仕事は終わったのか暇そうに見える。


 オムライス代わりに食べるように頼んでみるか。




「オムライス食べます?」




「我輩は神殿のゴーレムと同じで食事は取らないのである。それにしても二人分食べるとは奈々子殿は大食いなのであるな」




「いや……そういうわけじゃ……」




「大食いは美徳でもあるのである。今度から食費は奈々子殿の為に出来る限り多めに出すことにするのである」




「……」




 もう答える気が失せた。


 とりあえずオムライス全部食べたら部屋に入ってシャワー浴びて寝よう。




「それでは我輩は部屋に戻って寝るのである」




「はい、わかりました。おやすみなさい」




「あいや! また明日よろしくなのである」




 そう言ってパンプキン所長は部屋に入っていった。




「うー、オムライス二食分はお腹にくるわね」




 この量だと明日の朝食無くても問題ないわね。


 しばらく卵料理は見たくもないし、食べたくもないわね。


 食べ物を粗末にしてはいけないというおばあちゃんの教えを守って、あたしはちょっと無理してオムライスを食べ続けた。







 ジリリリリッ!


 目覚ましの音が鳴る。




「ん、もう朝か……」




 ジリリリリッ!




「あー、はいはい。止めて起きればいいんでしょ!」




 ポチッ!


 停止スイッチを押すと、目覚ましのうるさい音が止まった。


 昨日はオムライス二食分食べて、用意された鍵付きの部屋に入った。


 そしてシャンプーやリンスにボデイソープもあったシャワー室で体を洗ってパジャマに着替えてでさっさと寝ていた。


 時刻は八時半だった。


 ゾン太郎さんが朝食を用意するまで昨日フローレさんから貰った聖石の説明書を読んで覚えるか。


 そう思って一枚の聖石の説明書の紙を流し読みした。


 ふむ、魔法による電話帳の番号交換とダイヤル入力に着信履歴が見られるのね。


 圏外になるのはダンジョンに入っている時のみと最後に書かれていた。


 なるほど、通話以外のアプリがないスマートフォンとほぼ同じか。


 一瞬で覚えたのでもうこの紙は必要ない気がしてタンスの上に置いた。


 ガシャ!


 ガシャ!




「ん? 何の音?」




 外から聞こえた。


 窓をみると騎士の格好をした団体が列を作って歩いていた。


 この前の神殿でのトロルと甲冑男のやり取りを思い出した。


 確か昼頃にソードブレイカーって剣で云々言ってたわね。


 もしかして殺人事件になる?


 まだそうと決まったわけじゃないが騎士団の人達に言うべきだろう。


 スーツに着替えてドアを開ける。


 透明テーブルを見るとゾン太郎さんがピンクのエプロンをつけて料理を置いている。




「奈々子さん、おはようございますゾン! 今日は僕の作った朝食を一緒に食べましょうゾン!」




「おはようゾン太郎さん。朝食は……和風なのね」




 ゾン太郎さんの作った朝食はサンマの塩焼きにタケノコご飯、冷ややっこ、豚汁、きんぴらごぼう、ドレッシングソースをかけたサラダだった。


 あたしはソファーに座って透明テーブルに置いてある朝食を眺めた。




「おいしそうね」




「じゃあ一緒に食べましょうゾン」




 ゾン太郎さんはピンクのエプロンをキッチンでたたんで、あたしと対面する方のソファーに座った。




「いたたきます」




「いただきまずゾン」




 事件が起こる前に早く止めたいが、朝ごはんは一日のエネルギーゲインだ。


 すぐに片づけて外に出なければいけないわ。







「んー、美味しかったわ。ごちそうさまでした。食器洗いますね」




「僕がやるので良いですゾン」




「えっ? い、良いんですか?」




「気にしないでくださいゾン。ここを実家と思ってくつろいでくださいゾン」




「あ、ありがとうございます」




 ゾン太郎さんは本当に良いモンスターさんね。


 パンプキン所長は朝食を食べている途中に二階から降りてきて書類整理を無言でしていた。


 朝の挨拶をしようと思ったのだが、ゾン太郎さんが言うにはああなったパンプキン所長は誰にも耳を貸さないで書類整理をしているから気にしないで良いと言われて挨拶をしていない、


 それはそうとして、何か忘れている気がした。


 思い出した聖石だ。




「あっ! そうだ! 聖石のアドレス交換しませんか?」




「良いですゾン。じゃあ登録するゾンね」




 ゾン太郎さんがあたしの聖石を持って、聖石から浮き出た文字をあたしの聖石に入力した。




「これでいつでも聖石で話すことが出来るゾン」




「ええ、ありがとうございます」




「あいや! 奈々子殿! おはようである!」




 パンプキン所長が仕事が終わったのか、あたしに話す。


 ついでだからパンプキン所長の聖石もアドレス交換するか。




「あのパンプキン所長も聖石でアドレス交換しませんか?」




「それはいいのであるが、昼まで奈々子殿には書類の整理や掃除などをしてほしいのである」




 昼までか……。


 神殿での出来事を思い出す。


 あのトロルと甲冑男の話……あれが気になる。


 もしかしたら、その昼には殺人事件が起こるかもしれない。


 あたしの勝手な推測だけど、そんな気がした。

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