第28話

「おまたせしました。聖石に永続魔法を唱えて使えるようにしました。どうぞ」




 そう言ってフローレさんは聖石を渡した。


 永続魔法?


 きっとこの聖石が使えるようにできるその名の通りずっと使える魔法ってことかしら?


 たぶん、そうね。


 質問するまでもないか。




「はいどうもありがとうございます。聖石の使い方なんですが、どういう風に使うんですか?」




「それはこの説明書を読んでくれれば、私が説明するより早く理解できると思いますわ」




 そう言ってフローレさんは一枚のコンビニにある一枚コピー紙のように綺麗な紙を渡した。




「どうもです。後でパンプキン弁護法律事務所に戻ったら読んでおきます」




「はい、そろそろ神殿を閉める時間なのでこれで失礼します」




「えっ? まだ昼過ぎくらいですよ?」




 時計は見ていない以前に持ってないが、神殿に来た時は日がまだ昇っていた。




「この日は神殿の市民開放の時間が短い決まりなので、申し訳ありませんが神殿から出てもらえませんか?」




「分かりましたゾン。奈々子さん、オードリの町を案内しますゾン」




「え、ええ。分かった。それじゃあフローレさん、聖石ありがとうございます。神殿今から出ますね」




「はい、ではこれで」




 フローレさんはそう言って部屋に戻る。


 あたしとゾン太郎さんは一緒に神殿を出た。







 オードリの町の色んな場所をゾン太郎さんがナビしてくれて、終わるころには夕方になっていた。


 色々な店や公園、民家に誰も通らない人気のない場所も覚えた頃には夕方になっていた。


 そして今パンプキン弁護法律事務所のドアの前に辿りついた。


 まだ異世界には慣れないけどこのオードリの町の色々な場所は覚えた。


 鍵を使ってドアを開けて、一緒にパンプキン弁護法律事務所の中に入った。




「ただいま」




「ただいまですゾン」




 パンプキン所長からのおかえりという返事がなかった。


 部屋の真ん中でパンプキン所長は本を片手に囲碁をしていた。


 どうやら詰碁のようだ。


 こっちの声が聞こえなかったのか、かなり集中している。




「こういう時のパンプキン所長は話かけても無反応ですゾン。すぐに終わると思うからそのままにしておいてほしいですゾン」




「そう……わかったわ」




 囲碁中はパンプキン所長は何も見えなくなし聞こえなくなるのね。


 帰り道で町案内している時にゾン太郎さんと雑談したら、いつもはゾン太郎さんとお互い暇が出来れば囲碁で対局しているって言ってたっけ。


 そういえば弁護士育成学校の同じ寮の部屋にいるクラスメイトで女友達の山田が囲碁好きだったっけ。


 山田の顔とあたしの世界での日常を思い出す。


 あっ、ちょっと元の世界のこと思い出して戻りたいかも。


 おっと!


 いかん、いかん!


 ホームシックになっちゃダメだわ。




「奈々子さん、そろそろ夕食作りますゾン」




「ああ、あたしが夕食作るわ。住み込み初日だし、何かしないと申し訳ないしね」




「そうですか、なら今日の夕食はお願いしますゾン」




 さて、それじゃあオムライス作るから卵焼きから始めないとね。




「エプロンどこにあるの?」




「キッチンのそばにある冷蔵庫にかけてあるゾン」




「わかったわ」




 じゃあ調理始めるか。


 ちょっと普通のオムライスじゃつまらないからアレンジしてみるか。







「はい、オムライス二人前出来たわよ。あたしのいた世界、チキュウの日本という国と同じ食材が多かったから驚いたわ」




 あたしは来客用の透明テーブルの上にオムライスを置いた。




「そっちの世界でもこっちの世界でも食材はほぼ同じだと魔法役所関係の人から聞いて新聞や本で書かれてますゾン」




 ゾン太郎さんがそう言ってソファーに座る。


 そして続けて話す。




「僕らの世界の食材のほうが奈々子さんの世界にあるものプラス独自の食材もあるってことも本や新聞に書かれてまずゾン」




「なるほどね。じゃあ食べましょう」




「いただきまずですゾン」




 ゾン太郎さんがスプーンでオムライスの卵の部分を食べる。


 とたんにゾン太郎さんはスプーンを落とした。


 な、何かしら?




「奈々子さん。このオムライス何入れたんだゾン!?」




 なんか怒っている。


 正直に言うか。




「えーとね。このオムライスは卵とたくあんとプリンを混ぜて焼き込んだの」




「たくあんにプリン!? なんでそんな邪道な調理方法でやったんだゾン! マズすぎる味ですゾン! 普通のオムライスでいいではないでですかゾン!」




 じゃ、邪道って失礼ね!


 なら、あたしの料理哲学言うか。




「いいですか、ゾン太郎さん。人生も料理も何事も新しい未知のものに挑戦しなきゃダメでしょ? だから知っているものだけを食べ続けるなんでつまらないわ」




「保守的になってほしいですゾン! 奈々子さんの行為は食への冒涜だゾン! こんな味ではマズくて食べられないゾン!」




 ぼ、冒涜って……そこまで言う?


 そりゃ、あたしはなんか料理面に関しては家族に変わっていると言われたけど味でここまで言われるのは初めてだわ。




「もう奈々子さんはパンプキン弁護法律事務所で料理禁止ですゾン! 今までどうり僕が今後も料理しますゾン!」




 なんかあたしの欠点が料理下手って言われるくらいゾン太郎さんにボロクソに言われているわね。


 もう!


 何よ!


 ちょっと傷ついたじゃない。




「わかったわよ。それじゃあ今後はゾン太郎さんが料理担当ね。それが決まったし、まずこの残ったオムライスを完食しましょう」




「僕はこのオムライス食べずに冷蔵庫で塩かけトマトとチーズとハムにコンビーフ食べて部屋に入りますゾン!」




「た、食べないの?」




「奈々子さんが僕の分も責任持って食べてくださいゾン!」




 何よ、もう!


 ただ普通のオムライスじゃつまらないから卵とたくあんとプリン混ぜて焼いただけじゃない!


 なんで、こんなに怒られるのよ。




「理不尽ね……」




 そう呟いてオムライスを食べる。


 んー、ちょっと変わった味だけどイケるわね!


 そう思っているのあたしだけかもしれないけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る