第26話

 でも、やると決まったわけでもないし、まだ事件も起きていない。


 しかし相手を殺すみたいなことを遠回しに言っていた。


 気になるから動画で保存しておこう。


 オードリの町って今あたしのいるこの町よね?


 明日何か事件が起こる?


 サンマリの町の家主の秘宝?


 んー、謎だらけね。




「奈々子さん」




「うわっ! びっくりした!」




 何かと思えば、いつからいたのか分からないが手を激しくブラブラさせながら足を屈伸しながら立っているゾン太郎さんが後ろにいた。




「ちょっと待っててと言ってたけど、結構時間経ってたゾン。何で柱のそばで隠れているんですゾン?」




「え、ええと」




 うわっ、なんて説明しよう。




「内容詳しく聞かなかった僕も僕ですが、単独行動は神殿とはいえ治安が悪くなっているから危険ですゾン」




「そうね。すいません。気になることがあって……」




「気になること? 何かあったんですかゾン?」




 ええい!


 思ったこと曖昧だけど説明するか!




「ええ。まだ事案というか事件かどうか怪しいけど、それらしき様子があったからスライム立体ビデオカメラで録画してたの」




「まだ何も事件が起きていないのなら意味のない映像かもしれないですゾン」




「でも、重要そうだからデータ残しておきたいわ」




「奈々子さんがそう言うならそうすれば良いだけゾン」




「う、うん」




 悪い予感が当たらなければいいけど。




「奈々子さん、神殿の巫女さんに聖石貰いに行くゾン」




「そ、そうね。じゃあ行きましょうか」







「オルデラーンド神殿へようこそ。本日はどのような用件できたのですか?」




 神殿の主である巫女さんはそういってあたしを見た。


 年上のようだが綺麗な人だった。


 アメリカ人のような青い瞳にセミストレートの金髪の髪、薄ピンク色の小さな唇と真っ白な肌と文句のつけようのない美形だった。


 服装は滑らかなシルクの布を体にまとっている。


 まるで結婚式のウエディングドレスに近い服だった。


 首にぶら下げているペンダントに赤の宝石が埋め込まれていて、それが神秘的な雰囲気をさらに強く意識させた。




「ここのオルデラーンド神殿の主で巫女さんのフローレさんですゾン」




 ゾン太郎さんがそう言って手を激しくブラブラさせながら足を屈伸して紹介した。


 巫女をしているフローレさん、ね。


 なんか神秘的で近寄りがたい気がして緊張した。


 おっと、黙ってばかりはよくないわ。


 ちゃんと挨拶しなきゃ!




「は、初めまして藤田奈々子です。聖石を貰いに来ました」




 やばっ!


 ちょっと声が裏返った。


 は、恥ずかしいわ。




「ああ、あなたのことは今日の朝届いた新聞で顔を覚えていますわ。裁判でゾン太郎さんを無罪にして、魔法使いのエリスさんが犯人だった記事でしたね。そんな凄い方と今日お会いできて光栄です」




 フローレさんはそう言ってニッコリと笑顔を見せた。


 その時緊張していた空気が柔らかくなった。


 ん?


 新聞?


 この前のアンジュとの裁判のことが載っているのかな?


 というかこの異世界でも新聞あるのか。


 違和感ないし、ファンタジーな世界だからあるといえばあるのかも。


 あたしがそう考えていると、フローレさんは話を続ける。


「奈々子さんと裁判をしていた騎士検事のアンジュさんもここで聖石を貰っていましたわ。子供の頃ですが」




 アンジュがここに?


 地元なのかしら?




「えっ? そ、そうなんですか。あのポンコツアンジュ……いやアンジュ騎士検事はこのオードリの町の生まれなんですか?」




「いえ、アンジュ騎士検事は神殿のない町から足を運んで聖石をデニス最高局長と付き添いで貰いましたわ」




「そうなんですか、なんか偶然ってあるものなんですね」




 なんかいつも放課後に利用してた飲食店が、同じクラスの子も実は利用してたくらいの偶然ね。




「長話をしてすいません。聖石を渡しますわ。ここで少しだけ待っていて下さい」




 フローレさんがそう言うと奥の扉のある部屋に入っていった。


 今のうちにちょっとパンプキン弁護法律事務所に囲碁があること質問してみるか。




「ゾン太郎さん、パンプキン弁護法律事務所のことなんですが質問いいですか?」




「何ですゾン?」




「なんで囲碁がこの世界にあるんですか?」




「奈々子さんの世界にもあるんですかゾン?」




 まさか、この異世界でも同じように囲碁が出来たとか?


 ありえない!


 詳しくは知らないが囲碁は中国から生まれたテーブルゲームで、三国志時代でもあったはずだわ。


 ここに中国は無い。


 だから囲碁が出来上がることは絶対にない。


 まさかとは思うが聞いて見るか。




「ええ。ありますね。てっきりあたしの世界から六法全書と同じように輸入されているのかと思っていました」




 また魔法使いの青山素子が絡んでいるんではないか?


 そんな疑問が出てきた。




「ああ、思い出したゾン。奈々子さんの世界にもあるんではなく、奈々子さんの世界から広まりましたゾン」




「えっ? どゆこと?」




 広まった?


 それってすでに異世界バレてあたしの世界と文化交流しているとか?


 いやいやいやいや、それはまずない。


 わけわからん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る