第25話
「もちろん、事件が起きたら逃がさないように捕えますゾン。さぁ、神殿に入るゾン」
「え、ええ」
そう言ってあたしはこっちを見ていたゴーレムから視線を外して神殿の中に入った。
※
中に入ると人の少ない薄暗い石作りの建物だった。
壁には窓がなく、あちらこちらで火の精霊ウィル・オ・ウィスプがグルグルと回りながら明かり代わりになって動いていた。
西洋で見かける神殿そのものだった。
笑い声も聞こえた。
おそらく火の精霊ウィル・オ・ウィスプの笑い声だろう。
床には大理石が隙間なく地面の役割を果たしていた。
「ん?」
薄暗いが人影らしきものが見えた。
よく見てみると端っこに甲冑を全身に着ていて顔まで甲冑で隠している大男と青色の肌をした甲冑男と同じくらいの大きさのトロルのモンスターが何やら話していた。
人やモンスターが話すのはこの異世界じゃ日常茶飯事だろうがそれがどんなものか気になった。
怪しい光景ではないが、スライム立体ビデオカメラの説明終わったし、近づいて隠れながら撮影してみるか。
スライム立体ビデオカメラを録画モードにして近づいた。
「ゾン太郎さん。ちょっと待っててね」
「はいですゾン」
ゾン太郎さんを待たせて、神殿の端っこで話している二人にバレない場所まで近づいて話をスライム立体ビデオカメラで盗聴する。
話している声が聞こえた。
「では、明日にこのオードリの町に騎士団が来るから昼休みに自由行動があるゼニ」
「俺はその時を狙えばいいのだな。でもそいつは鎧を着ているぞ?」
トロルの男と全身甲冑男が立ち話をしていた。
「この鎧を貫くアーマーブレイカーソードを使えば一発ゼニ」
そう言ってトロルの男は大剣を甲冑男に渡した。
「いいか? 相手を絶対に間違えないで明日昼頃に必ずこのオードリの町で実行するゼニ」
「任せろ。そっちの俺がターゲットにしている家主の居場所は前も言ったが分かっているな?」
甲冑男が大剣を受け取って、そう言った。
「完璧だゼニ。ええと、明後日に家主が家を出て夜に散歩するから、サンマリの町で必ず家主は人やモンスターのいない公園に座って本を読むゼニ。そしてその隙を狙えば良いということゼニね?」
「わかっているようだな。それじゃあ、俺からはこのトリカブトの槍を渡しておく。これで頼むぞ」
そう言って長い赤色の槍を全身甲冑男はトロルの男に渡した。
トリカブトの槍?
トリカブトって確か毒よね?
なんかお互い物騒な武器渡しているし、犯罪かも。
いや、まだ決まったわけじゃない。
言葉と武器の受け渡しのみのやりとりだし、犯罪になるとかはない可能性もあるわ。
この異世界では武器を所持するのは問題ないって法律あるし、銃刀法違反にならないわね。
犯罪が起きるかも?
いやいやいやいや!
そんなことはなく、ただの勘違いかもしれないわね。
「家主にはこれで問題ないはずだ」
あたしがあれこれ想像している間にも話は続く。
それをスライム立体ビデオカメラで録画する。
「長くてちょっと重いがなんとかなりそうゼニ」
そう言って、トロルの男は甲冑男に貰ったトリカブトの槍をグルグルと回していた。
そのトリカブトの槍は刺せば心臓を貫けそうだし、外して体の一部に刺されば毒が回って時間経過で相手は死ぬような気がした。
さっきも思ったが、もしかしてこれは犯行計画なのだろうか?
いや、まだそうと決まったわけじゃない。
しかしそう思わせるやりとりだった。
あたしはそのままスライム立体ビデオカメラで録画を続ける。
緊張で額に汗が出てきた。
それでもバレないように録画を続けた。
「しかし、あんたは家主の隠している秘宝の場所を知っているからおいしい話ゼニね。それで後は邪魔な家主を……」
「喋りすぎだぞ! 他に聞こえたらどうする?」
「こ、ここじゃ巫女さんは遠くにいるし、誰も来ないゼニ。騎士のこと頼むゼニよ」
「本当にその騎士に不意打ちをとれるか?」
「大丈夫ゼニ。あいつはオードリの町では必ず休憩時間は一人で行動するから、この布に睡眠液を入れて背後から口にかぶせれば眠るゼニ。そして町はずれのダヤンの廃墟に運んでやれば問題ないゼニ」
そう言ってトロルの男は紫色の布と緑色の液体が入っているガラス瓶を甲冑男に渡した。
「わかった。騎士のことは俺に任せろ。明日に必ず実行する」
「それじゃあ。こっちは聖石でそっちの連絡待つゼニ。終わったらすぐに現場を離れて、この神殿あたりで聖石で連絡してくれゼニ」
「そっちも家主をことが終わったら必ず連絡しろ。
「任せろ。そろそろ泊っている宿屋の食事の時間だ。俺はこれで失礼する」
「分かったゼニ。こっちも乗って来た馬でサンマリの町まで戻るゼニ」
そう言って甲冑男とトロルの男は神殿から出て行った。
あたしはスライム立体ビデオカメラの録画モードを切って、冷や汗をかいていた。
もしかしてさっきの会話って間違いなく犯行計画?
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