第23話

「さぁ、町案内も兼ねて服屋に行きましょうゾン」




「そうね、じゃあそうしますか。パンプキン所長行ってきます」




「あいや! 奈々子殿。出会った記念にこれをあげるのである!」




「えっ?」




 そう言ってパンプキン所長はわたしにホームビデオを撮影するカメラのようなものをあたしに渡した。


 中にスライムの液体が入っているのか、ちょっとヌメヌメしている。




「こ、これは?」




 異世界裁判でオーク警察のゴン蔵さんが使っていた、撮ればすぐに写真が出てくるスライムカメラに似ている。


 その証拠にヌメヌメした感触がある。




「録画ボタンを押したらその光景が録画され、再生する時は立体映像になるスライム立体ビデオカメラである」




「スライム立体ビデオカメラ? スライムカメラとは違うんですか?」




「もちろん違うのである。これは普通のスライムカメラとは違って、写真はもちろん音声や動画などが記録されてさっきも言ったように立体映像で再生できるのである」




 なるほど、つまり異世界裁判していた時のオーク警察のゴン蔵さんの持っていたスライムカメラより性能の良いビデオカメラね。


 なんで、あたしにこんなものをくれるのだろう?




「な、なんでこれをあたしに?」




「ここのオードリの町は一見平和そうではあるが、犯罪がオーク警察の目を盗んでどこかで実行されているかもしれないからである」




 ふむふむ。




「ここ一か月でも十四件の事件が起きている。奈々子殿にも事件を目撃するかもしれなから、せめてこのスライム立体ビデオカメラを持って事件を少しでも解決してほしいのである」




 なるほど。


 確かに事件が起こる時に映像などがあると法廷での裁判で有利になるし、証拠品として大事になるわね。


 便利なアイテムを貰ったわ。


 それと、やっぱりデニス最高局長の言っていたように最近は事件が多いからどこも治安が悪いんだ。




「奈々子殿。もし今このオードリの町で事件があったとしよう」




「ええ、はい」




「その時に証拠でこの立体映像が出るスライム立体ビデオカメラで撮影しておけば、もし犯罪が起きて裁判になっても有利な証拠品になるのである。それは分かっているね?」




「は、はい。渡されたのも犯罪を防ぐ、もしくは証拠品として提出するためですね?」




「その通りである。奈々子殿が元の世界に戻れる魔法使いが来る手続きが一か月間以内とはいえ、それまでここで何があるか分からないのである。もしかしたら奈々子殿に弁護依頼することも可能性としてあるのである!」




「ほえ? べ、弁護依頼?」




 パンプキン所長はさりげなく最後にトンデモなことを言ってきた。


 それはあたしの弁護依頼だ。




「で、ですがあたしは御覧の通り半人前の勉強中の弁護士候補生です。弁護依頼なんて出来ないと思います」




「ゾン太郎君を無罪にしただけでもすでにここでは一人前である。だから弁護依頼が回ってくるのは当然である」




「は、はい」




 や、やっぱりあたしにも弁護依頼くるのね。


 パンプキン所長の言うようにアンジュとの裁判して無罪を勝ち取ったから依頼が来ても不思議じゃないか。


 そう考えないようにしてきたけど、甘かったわね。


 弁護依頼来ないって思ってたけど、異世界舐めてたわ。


 まぁ、まだ事件起きてないけど。


 でも、もしまた裁判をあたしがやる際はこのスライム立体ビデオカメラが役に立つってことも可能性としてあるわけね。


 裁判で有利になれる良いアイテムをゲットしたわ。


 でも、元の世界に戻る時は貰ったものとはいえ返さないと色々とマズいわね。


 このスライム立体ビデオカメラが原因で異世界のことがあたしのいた世界でバレれば国際問題レベルとかの事件になりそうだし。




「あの良いものをくれたのは嬉しいのですが、遅くても一か月後には元の世界に帰るので、このスライム立体ビデオカメラはその時が来たらお返しします」




「あいや! そうであるか。それならばその時に返してもらおう」




「あのパンプキン所長もこのスライム立体ビデオカメラを持たないと今後の事件の証拠集めにならないのでは?」




「その点なら心配はないのである。何故ならスライム立体ビデオカメラは予備もあるので我輩はそっちを使って証拠品などを今後事件が起きたら使って証拠品を集めるのである」




 ああ、スライム立体ビデオカメラの予備あるのね。


 余計な心配だったかな。




「ゾン太郎君が外で待っているから行きたまえ。あとスライム立体ビデオカメラの使い方もゾン太郎君に教わりたまえ」




「はい、分かりました。それじゃあ行ってきます」




 そう言って長い首輪のようにつながっているヒモのついたスライム立体ビデオカメラを首に下げて、あたしはドアを開けて外に出た。




「奈々子殿」




「えっ? なんですか? 他にも何かあるんでしょうか?」




 なんだろう?


 裁判の時はあたしの頭はいつもより冴えているけど、普段というか裁判以外のこういう日常の会話は相手が何を考えているかわからないのよね。


 もしかして他にアイテムくれるのかしら?




「な、何か他に渡す物でもあるんですか?」




「そうではないのである」




「えっ?」




 お互いわずかな時間の沈黙の間があった後にパンプキン所長が頭を下げた。




「パンプキン弁護法律事務所にようこそ。これから一か月間よろしくお願いするのである」




 そう言った後に頭を上げてあたしをじっと見た。


 あ、ああ。


 そういえばここに住むんだったわね。


 住み込みになるんだからよろしくお願いしますくらい言わなきといけないのに、パンプキン所長に先に言われたわね。


 そういうことなら、ちゃんとこっちも言わなきゃ。




「はい、お世話になります!」




 そう言ってあたしもパンプキン所長と同じようにお辞儀をした。


 なんだかんだで礼儀正しいモンスターさんね。


 さて、ゾン太郎さん待っているし外に出るか。


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