第22話

 ん?


 よく見たら窓側の所長らしき机に人の顔と同じくらいのサイズのカボチャが置いてあるわね。




「ゾン太郎さん。机にカボチャあるわよ」




「いえ、あれはカボチャではないですゾン。ええと……」




「我輩の頭を誰がカボチャと言ったのだ!」




 大声が事務所に広がった。


 というか窓際の所長の机に置かれていたカボチャの方向から聞こえた。


 そしてカボチャが動いた。




「あっ! カボチャが動いた!」




「我輩はカボチャではない!」




 そう言ったのは間違いなくカボチャからだった。


 よく見るとハロウィンで見かけるカボチャの目と口が切り抜かれているランタンのような顔がこっちを見た。


 カボチャじゃなくてモンスター?


 それは紫のスーツに赤ネクタイを締めたカボチャ頭のモンスターだった。


 カボチャの切り抜かれている口や目の奥は空洞で暗闇の中に白い炎が宿って輝いている。


 ちょっと怖い。


 カボチャのハロウィンのモンスターなのね。


 声はどこから出しているのだろう?


 お腹からなんとなく声が出ている気がする。




「黙ってないで我輩に自己紹介くらいしたまえ! 弁護士たるもの堂々と振舞わなくては依頼人が不安になるであろう!」




 カボチャのモンスターがそう言った。


 やっぱり声は頭でなくお腹から聞こえる。


 というか言っていること凄くまともね。


 ど、堂々と自己紹介しなきゃ。




「あ、はい。私は異世界のチキュウからきた弁護士候補生の藤田奈々子です」




 なんか異世界だからもしかしたら別の惑星かもしれないのでチキュウと言った。




「あいや! ではゾン太郎君の言っていた異世界の弁護士殿ですな?」




「え、ええ。まだ候補生ですけど……」




「我輩はパンプキン弁護法律事務所の所長で弁護士でもあるパンプキン・ブレッドである!」




 パ、パンプキン・ブレッド……。


 カ、カボチャ・パン?


 英語苦手だけど、たぶん和訳すると名前がそうなる。


 今まであったモンスターさんの名前の中で洋風というかちょっと変わっているわね。


 っていうか、今までのモンスターの中で一番ひねりがないネーミングね。




「あいや、奈々子殿」




 名前の後に殿ってつけられたの生まれて初めてだわ。


 どこの江戸時代かしら?


「な、なんでしょう?」




「我輩の助手のゾン太郎君を無罪にしてくれてありがたいのである」




 さっきから口調が安定しないモンスターさんね。


 でも、良い人そうね。


 人っていうかモンスターだけど。




「いえいえ、当然のことでしたから」




 パンプキン所長はカボチャをハロウィン用にくりぬいたままの顔だから表情は変わらないし、怒っているのかどうかポーカーフェイスみたいでわかりづらいわね。


 っていうかあれでご飯とかお風呂大丈夫なのかしら?


 もしかして、モンスターだから不要とか?


 可能性としてありそうね。


 カボチャの中の空洞に白い炎がグルグル回っていて、やっぱり不気味だった。




「君の部屋は以前に我輩の弁護士法律事務所に勤めていたエルフの弁護士が使っていた部屋を提供しよう。シャワー付きの部屋だからそこで住み込みしたまえ」




 おおっ!


 シャワー付きの部屋ならありがたいわね。


 ボディソープとシャンプーにリンスはあるのかしら?


 あ、あるということにしておこう。


 それって……ただの希望的観測だけどね。


 部屋を貸してくれるんだし、とりあえずお礼言わないと失礼ね。




「どうもありがとうございます。あの一つ良いですか?」




「なんであるか?」




「あたし今着ている服これ一着以外に服が無いので良ければスーツとか貸してもらえないでしょうか?」




「それなら我輩のポケットマネーでここの町の服屋に行って買ってきたまえ」




「えっ? いいんですか?」




 そんな太っ腹な。




「奈々子殿に合うサイズのスーツがこの事務所にはないから、買うしかないのである」




「そ、それは分かりますが。スーツってお金結構かかるんでは?」




「我輩のポケットマネーの金は余っているのである。ついでに寝る時の服と下着も買っておきたまえ」




 か、金は余っている。


 一度は言ってみたいセリフね。


 なんか頼もしいモンスターさんね。


 あっ、モンスターではなくパンプキン所長ね。


 お礼言わなきゃ。




「あ、ありがとうございます。パ、パンプキン所長」




「あいや! 気にすることはないのである。困っている者に手を差し伸べるのが弁護士の正しい在り方なのだから、奈々子殿を手助けするのは当然である」




 い、良いこと言っている。


 ウチのお父さんと同じくらい良い人だわ。




「ゾン太郎君。奈々子殿の荷物を降ろしたら服屋まで案内したまえ。我輩は昨日の終わった裁判の書類の整理で忙しいのである。頼んだよ」




「わかりましたゾン」




 ゾン太郎さんはパンプキン所長に近づいてお金を受け取るとあたしのところにトコトコ歩いて外に出るドアを開けた。


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