第21話

 やっぱり慣れない異世界に来たという点とそこで初めての裁判をしたという緊張が昨日は無かったとはいえ、今日になって一気にその疲れが安心して出たのね。




「ちょっと書類で散らかっている事務所ですが、冷蔵庫と洗濯機、キッチンにあと紅茶くらいはありますゾン」




 キッチンや冷蔵庫あるあたり、あたしの世界とちょっと似ているのね。


 家電製品もあって、魔法もあるのか。


 ん?


 家電製品?




「ゾン太郎さん、この世界って電気あるの?」




「はい、世界樹のマナを魔法使いが電気に変換してそれを世界全体に流して家電製品を動かしているゾン」




「じゃあ、コンセントとかあるの?」




「コンセントって何ですゾン?」




「ああ、コンセントは家電製品とかを動かすために必要な電気を発生させる差し込みが出来るコードみたいなものね」




 あたしの説明って今までの説明を含めて客観的に聞くと下手ね。




「いえ、マナがずっと電気に変換されているのでそう言うコンセントとかいうのは無いですゾン」




「えっ? じゃあ電気代高いんじゃないの?」




「料金は発生しないで二十四時間どの家電製品もマナから電気に変換する魔法使いがいて、同じようにマナを電気に変換する装置と一緒に仕事をしているから無料でやってますゾン」




 つまり魔法使いが機械と一緒に世界中の電気をマナから変えて無償で提供していると?


 神殿での聖石と言い、コンセント無しのマナが電気になって動く家電製品といい、異世界はやはり不思議なことだらけね。


 あたしの常識をどれもことごとく破っているわ。


 ゾン太郎さんが木製のドアについている鍵穴に鍵を差し込みドアを開けた。




「先に入って下さいゾン」




 おっと、いちいち驚いていても仕方ないか。


 一か月間以内とはいえ、この異世界に少しでも慣れないと余計な神経使いそうね。


 さてと、パンプキン弁護法律事務所に入るか。




「はーい、お邪魔しまーす」







「へぇ、意外と普通の法律事務所ですね」




 部屋に入るとあたしの世界と同じ職場のような雰囲気だった。


 過去にお父さんの仕事場である弁護士の法律事務所に行ったことがあったが、それとほぼ同じ光景だった。


 法律関係の書類の山に来客用のソファーにガラスのテーブル。


 会社のオフイスにあるような所長の机とゾン太郎さんの机に入り口近くの観葉植物。


 天井にある明かりを灯す電球は裁判所を照らしていた火の精霊ウィル・オ・ウィスプでなく、普通の光の電気だった。


 部屋の端っこに料理などをするキッチンと冷蔵庫があった。


 それと誰かの趣味なのか所長の机の前に囲碁をする碁盤と椅子がある。


 なんで囲碁が異世界にあるのかしら?


 というか、この世界ってあたしの世界と同じテーブルゲームがあるのね。


 なんでかしら?


 まぁ、後で時間が出来た時にゾン太郎さんかパンプキン弁護法律事務所の弁護士とかに質問してみるか。


 そして奥に二階に上がるための階段がある。


 階段の近くに個室が三つある。


 この部屋のどれかが浴室と洗濯機があるのだろう。




「パンプキン弁護法律事務所は、このオードリの町では他の弁護士法律事務所と比べれば人気のある法律事務所なので給料も良いですゾン。少なくとも月に最低二回くらいは弁護士の依頼がありまずゾン」




「たった二回だけの依頼でその月は黒字になるの?」




「ええ、僕のお父さんの資金援助もあるので赤字になって潰れることはないですゾン」




 なるほど、スポンサーはゾン太郎さんの家からなのね。


 息子の職場に投資で助けるところを聞くとゾン太郎さんのお父さんは良い人なんだろう。


 最低二回の弁護依頼だけでも人気があるということは、事件が最近多いと言っていたデニス最高局長の言葉と少し矛盾している気がする。


 ちょっとそのあたり聞いてみるか。




「ゾン太郎さん、ここ最近は事件多いのよね?」




「ええ、今月は十四件目の依頼があって、窃盗や殺人などが多いですゾン」




 なるほど、十四件か。


 じゃあデニス最高局長の言うように最近は事件多いのね。


 それなら少数の弁護士しかいない弁護法律事務所は大変ではなかろうか?




「ここって弁護士さん何人いるの?」




「先月エルフの弁護士さんがいたんですが独立しちゃって、今は所長一人のワンマン弁護法律事務所ですゾン」




 えっ?


 一人だけ?


 今月十四件の依頼を一人でこなしている?


 そりゃ、ハードワーク通り越してブラック企業だわ。


 募集とかかければいいのに。




「募集とかで弁護士さん雇わないの?」




「今までこんな感じでなんとか仕事終わっているので、募集かけなくて大丈夫ですゾン」




「ふーん、でもハードそうね」




 思わず本音が口に出た。


 でも、あたしもまだ実際に弁護士の事務所とかで働いていないから一か月に十四件の弁護依頼は多いのか少ないのか微妙だわ。




「今日から奈々子さんも一か月という短い期間ですが、弁護法律事務所の雑務とか手伝ってくれるだけでもありがたいですゾン」




「ええ、これから住み込みだからね。もちろんそれくらいするわ。任せてちょうだい!」




 まぁ、弁護士の仕事受けることはありそうだけど、所長一人でやっているって言うし依頼回ってこないはずね。




『もし事件が起こったら君に依頼をするよ』




 そう言ってくれたデニス最高局長には悪いけど、早く元の世界に帰らないとこの世界に馴染んで一生戻れなくなるかもしれないわ。


 それだけは避けたいわね。


 まあ、この前のアンジュとの裁判の結果があったとはいえ、あたしはまだ一人前とは言えない。


 ならあたしがここで弁護依頼受けることはまず無いわね。


 さて、パンプキン弁護法律事務所の周りを二階も含めて見て回るか。

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