第17話
「ゾン太郎さんは将来の夢とかあるんですか?」
「逆に聞きますけど、奈々子さんは将来弁護士になるんですゾンね?」
「ええ、弁護士候補生が弁護士にならないのは変ですしね」
「なんでまた弁護士なんて時には人から恨まれたりするような仕事を選んだんですゾン?」
ああ、いけない。
思い出してしまう。
そうあたしが弁護士になると誓った『あの日の事件』の光景が浮かぶ。
少し気分が悪くなった。
「ごめんなさい、ここじゃ話せないわ。明日の馬車の時とかに話すわね」
「奈々子さん、顔色悪いですゾン。なんか地雷踏んでたらすいませんゾン」
「大丈夫よ。もう『あの日の事件』は結構経つし」
そう、もう過去のことだわ。
お互い黙って静かになる。
それに耐えきれなくなったのか、ゾン太郎さんが席を立ちあがる。
「そろそろ僕は部屋に戻って寝るゾン。明日朝八時にここを出ましょうゾン」
「わかったわ。ご馳走様」
「八時あたりが結構荷台とかを積んだ馬車がついでに人やモンスターを運んだり、それ目的で馬車を奈々子さんの世界で言えばタクシーみたいに運んでくれる場所に行くゾン」
「うん、じゃああたしも部屋に戻るわね。鍵これでいいの?」
あたしは食べ物が来る前にフロントで渡された宝箱が開きそうな小さな鍵をゾン太郎さんに見せた。
「ええ、それですゾン」
この世界やパンプキン弁護法律事務所のことなど色々聞きたいこともあるが、今は眠いし明日にしよう。
とりあえず宿部屋に入って寝よう。
明日早く起きれるといいけど。
※
夢を見ていた。
それが何故夢かというと死んだおばあちゃんが家族であたしと一緒にご飯を食べているからだ。
「奈々子は頭が良いねぇ」
おばあちゃんがそう言ってあたしの頭を撫でる。
撫でられる感触はなかったが撫でられているように見えた。
これはいつの頃だろう?
「はい、奈々子。ほら、奈々子の好きなお母さんの手作りのスペシャルオムライスよ」
そう言ってあたしの大好きなお母さんが作ったオムライスがテーブルにあった。
ああ、わかった。
あたしの好きなメニューのオムライスが出るってことはあたしが誕生日の時だわ。
「奈々子。進路はまだ先の話だが弁護士だけはなるなよ。公務員目指すなら警察でも弁護士でも検事でもなく、そうだな、例えば市役所の職員とかがいいぞ。弁護士なんてロクなことないぞ」
黒ぶち眼鏡の弁護士の仕事をしているお父さんが口やかましくそう言った。
この言葉を覚えている。
確かあたしが小学生の四年生の時だ。
そしてあたしが小学校を卒業した時におばあちゃんは死んだ。
朝になってあたしがおばあちゃんを起こしても体温が冷えていて、お父さんに知らせるとお父さんは静かに目をつぶって黙っていた。
それからその日は学校を休んでしばらくしてお葬式になった。
おばあちゃんが死んだことが悲しかった。
でもそれ以上に悲しかったのはあたしが中学に進学した頃に起きた『あの日の事件』だ。
「奈々子は将来どんな子になるんだろうねぇ」
夢の中のおばあちゃんがそう言うと大好きなお母さんはあたしを見てこう答えた。
「どんな仕事や結婚などがあってもこの子は頭が良いから良い人生を送れるわよ」
あたしの大好きなお母さん。
あたしの好きなオムライスが目の前にあって、家族が食事をしている中で大きな音が聞こえてくる。
ドンドンドンドン。
何の音だろう?
そう思っていると周りの風景が黒い闇に変わった。
そして声が聞こえた。
「奈々子さん。起きて下さいゾン!」
※
「奈々子さん、僕だゾン。ゾンビのゾン太郎ですゾン」
ドアからノック音が聞こえる。
夢の音の正体はゾン太郎さんのドアのノック音だったのね。
それにしてもひどく懐かしい夢だったわ。
あれから結構経つわね。
あの頃は小さかったけど、今は成長したわ。
でも世間ではあたしは社会的に子供扱いだけどね。
さて、頭切り替えないとね。
そうか、もう朝か。
ベッドから起き上がる。
結局学校の制服のままベッドに寝たので服はシワシワだわ。
パンプキン弁護法律事務所の住み込みになったら弁護士が着れるスーツくらいは用意してほしいわね。
あんまり住み込みでワガママ言えないけど。
最悪セーラー服だけで過ごすかもしれないから今のうちに覚悟しておくか。
ベッドのそばにある窓を塞いでいる分厚いカーテンを広げると朝日が沁み込んだ。
昨日の夜はあんなふわふわした良いベッドで寝れて快適だった。
ネコネル宿屋はまた利用したいわね。
やっぱり変な名前だけど。
「奈々子さん起きていますかゾン?」
おっといつまでも返事ないとゾン太郎さんに失礼ね。
「ええ、起きているわ。今何時かしら?」
「八時ちょうどですゾン。この時間帯に馬車の多く通るシンフォニア馬車街道に行きますゾン」
この時間逃したら最悪馬車で移動できなくて徒歩になるかもね。
朝食なんか食べている暇はないわ。
「そう、なら朝食は抜きね」
「大丈夫だゾン。宿屋の女将さんに事情話したらお金を少し払ってサンドイッチくれたゾン。馬車に乗りながら食べましょうゾン」
朝食はサンドイッチか、パンもライスの次に好きだから楽しみだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます