第16話

 あたしのいた世界に帰れる保証もあるし、この異世界で貴重な体験が出来るわね!


 さっそく行きましょう!




「それじゃあ、ゾン太郎さんここから出て宿屋に行きましょう」




「はいですゾン」




 そう言って私達は裁判所から出て行った。







「へぇ、夜なのに人やモンスターが多いのね」




 あたしは人やモンスターがたくさん歩いている町の大通りをゾン太郎さんと一緒に歩いていた。




「この日は女王感謝祭をやっているので異国の人や僕みたいなモンスターがやってくるゾン」




「女王感謝祭? ということはここは城があって都会なのね?」




「まぁ、そうですゾン。でもここは一国の中堅くらいの城だゾン。都会はもっと大きな城と人やモンスターがいるゾン。それと大事なことですが、国が違っても法律は共通ですゾン」




「なるほどね。ここはまぁ、ちょっとだけ都会で法律はどこでも同じということね」




「はい、そうですゾン」




 ここの町の人達をゾン太郎さんの横で歩きながら、ちょくちょく観察するか


 町の中には露店が多い中でスーツを着たゴブリンや頭から足まで甲冑姿の騎士の大柄の人間がいたり、足元に背の低いスライムがするずると音をたてながら液体から出てきたとんがった触手の先っぽで買い物袋を持って移動している。


 エルフの耳や猫の耳に尻尾を付けた人に近い種族なども歩いていて、ここがファンタジーの世界だと嫌でも実感できる。


 彼らは普段どんな生活をしているのか?


 モンスターと人間などがお酒を飲みながらなんの話をしているのか?


 あたしはこの異世界に興味が尽きなかった。


 う-ん、異世界って映画やライトノベルやアニメでしか見たことないけど、それらは想像上のものだし、いざ本物の異世界に来てみると不思議なことだらけね。


 あっ、あの空飛んでいるモンスター何だろう?


 ガーゴイルかワイバーンかな?




「奈々子さん、足を止めると人どおりに迷惑だゾン」




 思わず気になって色々見渡していら足が止まっていたようだ。




「あっ! ごめん! ゾン太郎さん。宿屋まであとどのくらい?」




「あそこの道を右に曲がったところだゾン。この道だと案内の看板が見えるはずだゾン。アレだゾン」




 そう言ってゾン太郎さんが指さしたところに目立つ看板があった。


 そして看板には文字が書かれていた。


 文字はデニス最高局長の話のとおり日本語だったのですぐに読めた。


 ネコネル宿屋この先十メートル。


 そう書かれていた。




「ネコネル宿屋? ネコネルって何よ?」




「昔ネコネル騎士団って言う猫族の騎士団が建てた宿屋ですゾン。二百年の歴史がある高級な宿屋ですゾン」




 猫で騎士なんだ。


 猫なのに馬に乗って甲冑着て剣を持って二足歩行するのかしら?


 なんか猫が鎧着て、馬に乗るってよほど大柄な猫なのね。


 想像するとシュールね。


 にしてもネコネルなんて変な名前ね。


 高級って言ってたけどゾン太郎さんお金大丈夫なのかしら?




「高い宿屋なんですよね? お金大丈夫ですか?」




「心配ないゾン。今日はさっきも言ったように女王感謝祭だから宿代は団体でも四名以下なら一人用と同じ価格でしかも半額になっているゾン」




 なるほどね。


 感謝祭のイベントがあるとはいえネコネル宿屋も半額とは景気が良いじゃない。




「それなら満室になる前に早く行きましょう」




「ここのイノシシステーキとシュワシュワジュースはおいしいですゾン」




「楽しみだわ」




 そう言って私達は宿屋に入った。







「あー、美味しかった! 堪能したわ。ありがとうゾン太郎さん。こんなにおいしい食べ物初めてだわ」




「いえいえ、僕の無罪を勝ち取ってくれたお礼ですゾン」




 宿屋の食堂で周りが大騒ぎする中で隅っこのテーブルにあたしとゾン太郎さんの二人で椅子に座り、木製のテーブルにある食事を食べ終わった。


 いやー、イノシシステーキとシュワシュワジュースの組み合わせ最高だったわ。


 それは良いとして宿代は別だったようだから、こんなに豪華な食事を注文してお金は大丈夫なのかしら?




「ゾン太郎さん。住み込みでパンプキン弁護法律事務所とかに働いているって聞いたけどお金大丈夫なの?」




「お金に余裕があるから大丈夫ですゾン。それに自慢ではないですが僕の実家は元々富豪の家ですゾン」




「えっ? じゃあお金持ちなんですね」




 ゾンビのお坊ちゃんって中々見ないわね。


 まず、あたしの世界でゾンビを空想の映画以外で見たことないわね。


 そんなことを考えているとシュワシュワジュースを一口飲んだゾン太郎さんが少し間をおいて話し始める。




「確かにお金持ちですけど、両親からは最低限の仕送りしか貰えてないですゾン」




 ふぅん、意外と厳しい家庭なのかな?




「親からは欲しいものは自分で働いて手に入れなさいっと言われて自立していますゾン」




 自立って言っても住み込みじゃん。


 まあ、ゾン太郎さんもあたしと同じで色々あるのね。




「大変なんですね」




「パンプキン弁護法律事務所の所長が良い人だし、イザエモン館長のコナカ博物館とかも良い人が多いから金銭面でも健康面でも無理せず生活に余裕が出来るくらいの時間帯で働いているゾン」




 職場に恵まれているのは羨ましいわ。


 あたしが弁護士高校で一年間だけバイトしてたラーメン屋は労働環境や対応が最悪だった。


 まかないのご飯が出ないし、店長口悪いし、バイトの連中は挨拶もしなかった。


 思い出すだけで最悪のアルバイトだったわ!


 まあ、あの時は親がしばらく仕送り半分とか言って、仕方なく働いていたけど大変だったわ。


 そんな当時のあたしなんかよりゾン太郎さんはしっかりしているように見えるわ。


 ゾン太郎さんって将来の夢とかあるのかしら?


 ちょっと聞いて見るか。

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