第15話

「デニス最高局長。元の世界に戻せる魔法使いを手配してくれるのはありがたいのですが、あたしがこの世界で一か月過ごすにはお金も生活する場所もありません。なので今困ってます」




「やーやー。それは私でも力になれないから困ったもんだねぇ。契約書や手続きとか色々あるから流石に一日では呼べないんだよ。すぐに呼べるというわけではないから諦めてくれたまえ」




 つ、冷たい対応。


 ううん、どうしよう?


 本当に一か月間最悪飲まず食わずで生きられるのだろうか?


 餓死決定かも。


 困ったわ。




「それなら僕に良い考えがあるゾン!」




 今まで黙っていたゾン太郎さんが手をブラブラさせながら足を屈伸して声を出した。




「ゾン太郎さん。いい考えって?」




「僕の住み込みで働いているパンプキン弁護法律事務所に住めるように所長に頼んでみるゾン。きっと承諾してくれるゾン!」




 住み込み?


 それなら衣食住があるから一か月なんとかなりそうかも!


 やったわ!


 ふふん、あたしの運もかなり良いみたいね!




「ありがとうゾン太郎さん。それじゃあしばらくお世話になるわね」




「はいですゾン! 今から聖石でパンプキン所長に内容話してくるゾン!」




 そう言ってゾン太郎さんは聖石を取り出し、通話を始めた。




「やーやー。君に弁護を頼むときはパンプキン弁護法律事務所に頼むことにするよ。私も身近に事件があるかもしれないからね。パンプキン弁護法律事務所の所長は弁護士として優秀だから君もそこで指導されてより良い弁護士になれるかもしれないね」




「はい」




 まぁ、遅くても一か月だから弁護士として依頼されることもないでしょうね。


 事件が多いと言っても毎日毎週起こるとは限らないしね。


 た、たぶんだけど。


 そういえば法律以外に裁判が始まった時から気になることがあった。


 よし、それを今からデニス最高局長に聞いて見るか。




「デニス最高局長。最後の質問いいですか?」




「やーやー。いいよ」




「何故この世界ではモンスターや人が日本語の文字が読めたり、日本語が話せるんですか?」




「やーやー。そうだねぇ、六法全書が来るまでは私達の独特の文化の文字と言語を使っていたんだが、六法全書と一緒に青山素子があらゆる文字を日本語に変えることの出来る大魔法を世界中に使ったんだよ」




 大魔法?


 魔法使いのエリス見せた魔法のログより、凄い魔法かしら?


 魔法範囲の規模が大きいから大魔法なのかしら?




「それですぐに六法全書が読めるようになったんだよ。そして大魔法の他の効果で日本語の発音も出来るようになっていたんだ。もちろん言葉の意味も理解できるほど一瞬で変わったんだよ」




 魔法で一気に過去の文字を日本語の文字に書き換えた?


 そして日本語も話せるようになり、意味もちゃんと分かるように一日で変えたということ?


 デニス最高局長の話を聞くに、やはり他の魔法とは規模が違うようだ。


 大魔法だからきっと奇跡が起こるとかそういうものかもしれない。


 世界中に一瞬で文字などを書き換える大魔法を使う青山素子さんは普通の魔法使いとはケタが違うようだ。




「やーやー。そうして、今までの古い文字は日本語に書き換えられたり、過去の文字は国立図書館で保管されているよ。今でも日本語と古い言語を両方喋れる人やモンスターがいるけど、そういう人やモンスターは今では凄く少ないね」




 なるほど。


 話を聞く限りでは異世界はあたしの常識を覆すことが多いようだ。


 大魔法とやらで文字や話し言葉くらい変えられても不思議じゃないわけね。


 文字を日本語に変えたということは日本語も話せるということ。


 どうりで裁判でもドラゴ裁判官などが日本語で話していたのね。


 謎や疑問は解けたわ。




「やーやー。それじゃあ私はこれから仕事があるから失礼するよ。ではでは」




 あたしの質問が多かったのか、忙しいのにわざわざ色々答えてくれたデニス最高局長はそう言って去って行った。


 その後に聖石の通話を終えたばかりのゾン太郎さんが、後ろからあたしの肩をポンッと叩いて振り向いたあたしに声をかけた。




「奈々子さん。所長が大丈夫だと言ってくれたゾン。これからよろしくお願いしますゾン」




 どうやら一か月生きられる保証が出来たらしい。


 ふう、ちょっと心配だったわ。




「ゾンタロウ サン」




「うわっ! びっくりした!」




 誰かと思えばオーク警察のゴン蔵さんじゃない。


 いきなり現れるから驚くわ。


 やっぱり渋い声ね。




「ケンサ オワッタ ニモツ デス。 ドウゾ」




 そう言ってオーク警察のゴン蔵さんはリュックサックのようなものををゾン太郎さんに渡した。




「ありがとうですゾン」




「イエイエ。 コレデ シツレイ シマス」




 そう言ってオーク警察のゴン蔵さんは階段を降りて出入り口のドアを開けて去った。


 荷物?


 ああ、そういえばゾン太郎さん犯人扱いだったから荷物に何かないか検査で没収されてたのね。


 まぁ、犯人じゃなくなっているのはもう知っているし、さっさとパンプキン弁護法律事務所に行って一か月過ごさなきゃいけないわね。




「それじゃあ、さっそくパンプキン弁護法律事務所に行きましょう」




「奈々子さん。今日はダメですゾン」




 えっ?


 なんか不安。


 やっぱ住み込みは駄目なのかしら?


 ピンチね!


 嫌な予感が当たらないことを祈りつつ聞いてみるか。




「な、なんでですか?」




「パンプキン弁護法律事務所はここからだと馬車で丸々一日かかるゾン。それと今日はもう日が落ちて暗いから馬車もないゾン。宿屋で部屋を別々で借りてそこで泊ってから明日の朝に馬車で行きましょうゾン」




「丸々一日かかるってそんな遠いんですか?」




「そもそも裁判所が中途半端な位置にあるからコナカ博物館は元から遠いのですが、パンプキン弁護法律事務所もちょっと遠めにあるんですゾン。今日は宿代のお金あげるので今から宿屋に行くゾン」




 異世界の宿屋か。


 なんか今すぐ元の世界に帰りたいけど、ちょっとこの異世界で冒険してみたくなるわね!


 好奇心が湧くわ!


 宿屋のご飯も気になるし、とても楽しみだわ!

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