第14話

「ありがとうございます。デニス最高局長」




「やーやー。気にしなくていいよ。ところで最高局長って何をしているか知りたくはないかね?」




 どうでもいいけど、聞かないと魔法使いの一件取り消されそうね。




「え、えーと何をしているんですか?」




「やーやー。主に、この世界の弁護士や検事を登用している。奈々子くんの世界で言うところの人事部長みたいな仕事だ」




 なるほど。


 つまりこの人がアンジュとかいう検事と呼ぶには実力不足に思える人を採用しているのね。


 ひどい話だわ。




「あなた方の世界では弁護士や検事は少ないからああいう実力不足の検事がいるんですか?」




 しまった!


 うっかり本音が出た!


 デニス最高局長は少し黙って笑顔で答えた。




「やーやー。ここ最近事件が多くて人材不足でね。君を呼んだのは犯人の魔法使いのエリスだが、その時は人手が足りないから了承してしまったんだよ。ああ、ちなみにアンジュは私の娘で検事をしたいと言って来たんだ」




 検事をしたい?


 つまりそれって……あんまり大きな声では言えないけど。


 要するにコネかい!


 どうりでダメなはずだわ。


 あたしが呆れているのを気にせずにデニス最高局長は話を続ける。


 ゾン太郎さんは緊張しているのか黙ったまま手を激しくブラブラさせながら足を屈伸している。




「やーやー。本当にここ最近事件が多くてね。せっかくの秩序が保たれていたのに、大陸を収めている王が変わったせいでその秩序も崩壊しかけているんだ。頼りない王による政治は前よりも悪化の一途を辿ってる。その結果犯罪も増えてしまってるんだ。」




 そんなに事件が多いのか。


 物騒なところね。


 ん?


 そこでふと疑問が出た。




「あのデニス最高局長。ちょっと質問良いですか?」




「やーやー。何だい?」




「何故この世界は私のいた世界と法律が似ているんですか?」




 気にしていなかったけど、不思議な点だった。


 デニス最高局長は遠くを見るような眼をして咳ばらいをして答えた。




「やーやー。それは二十年前に魔法使いの青山素子という奈々子さんの世界で弁護士をしていた女性が六法全書を持ってきて、それから昔の法律は消えて、六法全書を元に新しい法律や裁判所の制度を作ったのが始まりだよ」




 青山素子?


 日本人の名前ね。


 あたしのいる世界出身なのに弁護士でしかも魔法使い?


 まあ、あたしの世界でも魔法使いはいたってことね。


 そこは認めるしかないわね。


 何故ならあたしは異世界にいるし、あたしの世界でも魔法使いがいましたと言っても信じられるわね。


 それとその人がこっちの世界の法律や法廷を変えたのね。


 つまり新しい法廷が出来たのはまだ二十年程度でそれ以前は無法地帯か城の簡易裁判所みたいなところで適当に決めていたのかもしれないわ。


 さっき納得しちゃったけど、本当にあたしのいた世界の魔法使いなのかしら?


 今までバレなかったのが不思議だわ。


 本当にあたしのいた世界の人間なのかしら?


 ちょっと聞いて見るか。




「その青山素子さんは元々は私の世界にいたんですか?」




「やーやー。詳しいことまでは分からないけど彼女は奈々子さんの世界やこの世界を自由に行き来して育った魔法使いでもあり弁護士でもある女性だよ。今は行方不明だけどね」




 詳しいことは分からずじまいか。


 何故あたしのいた世界にいて魔法使いであるという事実を隠して弁護士になれたのか?


 もしくはこの異世界で魔法使いをしていたのにあたしのいた世界に来て弁護士になり法律をこの異世界で教えたのか?


 目的が分からない。


 色々考えてもはっきりしないけど、法律や裁判所が出来たのはその人のおかげなのね。


 しかも行方不明ならそれ以上の詳細を聞くことが出来ないわね。


 でも六法全書が意外と最新のものになっていたわね。


 二十年前の六法全書を貰ったはずなのになんでなのかしら?




「デニス最高局長。青山素子さんが六法全書を持ってきて法律を決めたのは分かりました。しかし、それは二十年前の六法全書ですよね? なのに何故六法全書は最新のものになっていたんですか?」




「やーやー。それはね、魔法法律所という機関があってだね。毎年君の異世界に行って弁護士に六法全書を貰っているのだよ。もちろんタダではないよ、高価な宝石をあげて六法全書を貰っているんだよ。ああちなみに、この魔法法律所では君を元の世界に返せない法律があるからダメだよ」




「わかりました。その魔法法律所は青山素子さんが来てから設立されたんですか?」




「やーやー。そうだね、彼女が君の世界とこの世界を行き来できる黒い穴のゲート、そのゲートを私たちはブラックホールと呼んでいるが、このブラックホールを作ってくれたんだよ。そしてそこで毎年私たち側から高価な宝石を弁護士に渡して、魔法使いの役員が新しい六法全書を宝石と交換しに行くんだよ」




 なるほどね。


 ちょっと疑問が出たから言って見るか。




「デニス最高局長。なぜブラックホールがあるのに転移魔法があるんですか? ブラックホールで行き来すれば異世界転移魔法覚えなくてもいいですよね?」




「やーやー。ブラックホールは魔法法律所の重役しか行き来出来ないようにその重役達によって決められているんだよ。過去に奈々子さんの世界から来た人がブラックホールを利用して、ここの宝石などを持ち去ろうとしていたんだよ。それを防止するためにこの決まりが出来たのさ」




 なるほど。


 そうだったのか。


 重役にも魔法関係の法律は決まっているのね。


 そりゃあたしの世界の法律では魔法までは流石に書いてない。


 そちらで決めるしかないわけね。


 納得したわ。


 だいたいの事情は分かった。


 ブラックホール以外にも六法全書の法律が最新の理由もわかった。


 そういう方法で法律は最新のものになっているのね。


 それはそうとして。


 あたしの世界に戻してくれる魔法使いをデニス最高局長が一か月以内に手配してくれるのはいいけど、その間の一か月間どうしよう?


 飲まず食わずじゃ生きていけないわね。


 あんまり考えたくないけど、考えてしまうわね。


 不安だわ。

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