第13話
「ぬぎゃあああ! こ、小娘に、小娘にこの天才騎士検事アンジュが負けるとは!」
アンジュ騎士検事も魔法使いのエリスと同じくらい悔しがっていたようだ。
「アンジュさん、あたしをみくびっていましたね。私は藤田奈々子弁護士候補生! 悪を許さない正義の弁護士を目指す者! 覚えておいて損は無いですよ」
「今日はたまたま運が良かっただけだが、今度からはそうはいかないぞ小娘! いや、藤田奈々子弁護士候補生!」
ようやく名前を覚えてくれたみたいね。
ちょっと終わった後だから遅い気もするけど。
「奈々子さん、私信じていたのよ」
「えっ?」
魔法使いのエリスがぼそりと信じていたと言った。
「信じていたとは?」
「あなたが候補生とかいうから信じていたのよ この世界で法律もまだ解りきっていない少女をちょっとアドバイスしても、アンジュに敗訴してゾン太郎さんを有罪にしてくれるってね」
なるほどそういう意図で召喚させたのか。
魔法使いのエリスは話を続ける。
「だから私がここで裁判を必ずする世界で召喚したのよ」
「そうですか、運がなかったですね。私を普通の学生と思っていたのがあなたの誤算でしたね」
「まったくだわ。ここの弁護士が人手不足の時期だから異世界召喚出来たのが裏目に出たわね」
「なんで棍棒を盗もうと思ったのですか?」
「仕事を止めて楽に暮らせる人生のラストチャンスと思ったから実行したのよ」
「それだけの理由ですか?」
「ええ」
たったそれだけの理由で?
許せない。
「魔法使いのエリスさん。あなたは人として最低の行為をしましたね。まっとうに働くことを考えずに棍棒で欲におぼれた最低の犯罪者です」
「最低だなんて……そんなの私だけじゃないわ。そう、あなただっていつかはそう思う日が来るわよ」
「そんなことはありません!」
そう、そんなこと絶対にない。
絶対に。
絶対によっ!
そう思っているとドラゴ裁判官の木づちの叩く音が聞こえた。
「それでは魔法使いのエリスさんはこの事件の真犯人ということで今から牢屋に入り、その後有罪判決の為に懲役などを決めますドラ」
ドラゴ裁判官ガそう言って、オーク警察のゴン蔵さんが魔法使いのエリスを証言台から出入り口に手錠をはめて魔法使いのエリスを連行した。
「ではゾン太郎さんの判決を言います。無罪ですドラ」
「や、やった! 助かったゾン!」
ゾン太郎さんはゆっくり足を屈伸しながら手をブラブラさせて落ち着いているようだった。
裁判は終わったわ。
たくさんこなした高校の模擬裁判ではなく初めての裁判で無罪を勝ち取った。
まだ学生なのに模擬裁判ではない本物の裁判を体験した。
異世界とはいえ良い経験値になったわ。
なにより少し自信がついた。
それは良いとして。
これからどうしよう?
「ああ、これからの展開がヘビーだわ」
視聴席の連中の大きな拍手の中で思っていた不安が思わず口に出た。
※
「奈々子さん、本当にありがとうございましたゾン!」
あの後法廷を出て椅子やテーブルが置かれている法廷準備室にゾン太郎さんと一緒に入った。
感謝されるのは良いが、この世界で生活以前に私の世界に戻れない不安がゾン太郎さんの感謝の言葉を聞いても嬉しくなかった。
でも人材派遣の会社があるから元に戻れるはずだわ。
戻せなかったらどうしよう?
そう思うと不安だった。
「ゾン太郎さん」
「なんですかゾン?」
「私元の世界に帰れるのかしら?」
「それは……」
「やーやー。君がウチの娘のアンジュを負かした異世界の弁護士さんだね」
ゾン太郎さんが答えを言おうとした時に大柄な黄色の紳士服を来た白髭の男が大きな声であたしを呼んだ。
ウチの娘のアンジュ?
もしかしてお父さんかな?
「デニス最高局長ゾン!」
ゾン太郎さんが驚く。
最高局長?
裁判所関係のお偉いさんかな?
「やーやー。弁護士候補生だったね。失礼、私はこの世界の最高局長をしているデニス・ケリービだよ。よろしく!」
デニス最高局長はそう言って私の右手を掴んで握手した。
ちょ、ちょっと強引ね。
驚いてばかりもいられないわ。
返事返さないとね。
「ど、どうも弁護士候補生の藤田奈々子です」
「やーやー。君の考えていることは分かるよ。奈々子くん」
えっ?
いきなり何?
何を分かっていると言うの?
「やーやー。帰るための魔法使いを遅くとも一か月中に手配しよう」
ああっ!
帰れるんだ!
やったわ!
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