第12話

 時間のあるうちに他のことも聞くか。


 他にも怪しい部分はあるはずだわ。




「魔法使いのエリスさん、一つ聞きたいのですが」




「な、何かしら?」




「コナカ博物館で働いていたんですよね?」




「ええ、日雇いですけど、まさか事件の日に日雇いで働いてたことから疑っているのかしら?」




「はい、残念ですが犯人である可能性が高いので聞きました」




 時間について聞いて見るか。




「魔法使いのエリスさん。あなたは何時に馬車の棍棒を見ましたか? それとコナカ博物館からバンエイ博物館に運ぶ時間は何時か分かりますか?」




 魔法使いのエリスはしばらく黙り込んだ。




「小娘。日雇いとはいえ時間くらいしっかり覚えていると思うぞ。はっきり言って無駄な質問だな。魔法使いのエリス殿もそう思っているだろう」




 アンジュ騎士検事の言葉を聞いて、黙りっぱなしだった魔法使いのエリスは顔を上げた。




「そ、そうよ。私も日雇いとはいえ時間くらいは知っていますわ。答える必要はありません」




 そういって話を魔法使いのエリスは流すように言った。


 どこか焦っている感じの声だった。


 もうちょっと突っ込んでみるか。




「それでもあえて聞きます。時間は何時ですか?」




 私の二度目の同じ質問に魔法使いのエリスは汗を流しながら答えた。




「そうね。確か荷物を運ぶ前に確認したのが九時ね」




 ここだ!


 やはりそうだ。




「九時で間違いないですか?」




「は、はい。そうです。確かに九時でしたわ」




「いいえ、違います。あなたは九時に荷物を確認することは不可能です」




「えっ? 不可能?」




 魔法使いのエリスは視線を私にむける。




「小娘。どういうことだ?」




「今説明します。それはこの証拠品であるゾンビのゾン太郎さんの馬車の証明書に書かれています」




 最初の証拠品であるスライムカメラで撮影したゾン太郎さんの馬車の移動時刻や日時が書かれた証明書の写真を見せた。




「そ、それは?」




 魔法使いのエリスはそれを見て質問する。




「オーク警察のゴン蔵さんがスライムカメラで最初に撮った証拠品です。ここに正確な時間が書かれています」




「時間が違うということですかドラ?」




「そう、その通りです。事件のあった日の馬車の移動開始時間は九時ではなく八時だったんです」




「魔法使いのエリスさん。時間を間違っていたのはその八時にコナカ・イザエモンさんと同じように馬車の荷物を確認して馬車が移動した時間が八時だと思っていたからです。ここに矛盾があります」




 そうこの矛盾が怪しい。


 魔法使いのエリスは頭を抱え込み始めた。


 追い詰めている。


 間違いない。


 この事件の犯人は前も思っていたが、やはり魔法使いのエリスさんだ!


 後は煙の呪文がログに出ればゾン太郎さんの無罪を勝ち取ることが出来る!


 落ち着け、奈々子。


 あと少しでこの異世界裁判は終わる。




「じ、時間が違うくらいで犯人扱いですか? それはちょっと変ですよ」




 魔法使いのエリスはビクビクしながらそんなことを言っていた。




「そうですね。ですがあなたは時間を間違えた。これはあなたが犯人という可能性が高くなる立派な証拠です」




 そう言っているとオーク警察のゴン蔵さんが魔法役所関係の人らしき人物と一緒に裁判所内に入って来た。


 そしてとんがり帽子を被った関係者の老人の魔法使いが証言台の横に移動して立った。


 このおじいさんが魔法役所のお偉いさんね。


 その老人が口を開けて話し始めた。




「えー、オホン。魔法使いのエリスさんですがボムフレアの更新前の魔法はスモークという煙を出す魔法を登録してました」




「間違いないんですね?」




「はい、確かにボムフレアの前の魔法はスモークでした。それではこれで失礼します」




 そう言って老人はオーク警察のゴン蔵さんと一緒に裁判所の出入り口に移動して姿を消した。




「エリスさん。あなたはゾン太郎さんの運んでいた棍棒を本所から連絡が来たと言う嘘をついた。そして馬車の中でスモークの魔法を使い煙を出してゾン太郎さんに爆破物があるように思わせ棍棒を盗んでその場から離れたんです」




 周りが静かになる。


 アンジュ騎士検事がその中で汗を流しながら私に視線を向けた。




「こ、小娘。確かに出来るかもしれないがそれなら魔法使いのエリス殿以外でも出来るんでは?」




「いいえ、出来ません。何故なら犯行日時と魔法に実際に来た事実も含めて魔法使いのエリスさんが犯人です」




 これで決まりね!




「それでは視聴席の皆さん。魔法使いのエリスが有罪だと思うでしょうか?」




 私の発言に視聴席の連中がガヤガヤと騒ぎ出す。




「おいおいこれって決まりじゃないか?」




「ああ、犯人は魔法使いのエリスで間違いない」




「有罪だよな?」




「そうだ! 有罪だ!」




 騒いでいた視聴席の連中が有罪、有罪と言い始める。


 そして全員がある言葉を連呼して叫び出した。




「有罪! 有罪! 有罪! 有罪!」




 裁判所の中から魔法使いのエリスが犯人で有罪というコールが流れた。




「ぐっ! ぐぐっ!」




 魔法使いのエリスは両手に握りこぶしを作り杖を落とした。


 決定的ね!


 よし!


 ここで決めるわ!




「魔法使いのエリスさん。あなたが犯人です!」




「き、きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……!」




 魔法使いのエリスは大きく叫んで頭を抱え込んだ。


 終わった。


 あたしの弁護に間違いはなかったわ。


 ゾン太郎さんの無罪を勝ち取った。

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