第11話

 仮に魔法使いのエリスが犯人だとしても他の魔法使いに元のあたしのいる世界に返してもらえればいい話だわ。


 い、いるわよね?


 魔法使いのエリスさん以外のあたしを元の世界に戻せる魔法使いって!


 ああっ!


 考えても不安だけど、いるはずね!


 そう思っておこう!


 まずそんなことよりゾン太郎さんの無罪を勝ち取るために裁判に集中しよう。


 そう決意してあたしは魔法使いのエリスさんを見た。




「いいえ、ここまで来たので最後まで法廷で裁判を終えて、ゾン太郎さんの無罪と真犯人の有罪を決めるまで帰りません」




 木づちを叩く音が聞こえた。




「では奈々子さんの言う通り、魔法使いのエリスさんに魔法リストについて詳しい説明をしてもらいますドラ」




「わかりました。まずはこの異世界召喚の魔法ですが、先に述べた通り異世界に行ってその人物を私たちの世界に送る魔法です」




 魔法使いのエリスはそう説明して続きを話した。




「この魔法は一日につき三回まで行うことが出来ます」




 なるほど、三回だけ呼ばれるというわけね。


 ん?


 少し気になった疑問があるわね。


 ちょっと聞いて見るか。




「あの魔法使いのエリスさん」




「何かしら?」




「あたしが呼ばれた時は何回目の異世界召喚の魔法だったんですか?」




「一回目よ。他は今日はあなた以外に異世界召喚の魔法を使ってないわ」




 ふむふむ。


 それなら疑問はなくなったわね。


 他に召喚して棍棒の窃盗の手伝いをしたという説が消えたわ。




「弁護士側。魔法使いのエリスさんの魔法の説明に対する疑問ははもういいですかドラ?」




 ドラゴ裁判官がそう言って木づちを叩く。




「はい、魔法使いのエリスさんの魔法の説明を続けてください」




 まだ終わってない。


 魔法への疑問が何か引っかかる。


 このまま説明を聞こう。




「では魔法使いのエリスさん。他の魔法の説明を続けて下さいドラ」




「はい。ドラゴ裁判官。次にこのアイスストーンですが、これは氷の槍などを作り相手に刺したり氷漬けにする魔法です」




 この魔法は煙が出る事態にはならないか。


 更新がつい最近のことだからおそらく魔法使いのエリスも覚えたばかりで扱いにくいはずだ。


 氷の槍や相手を氷漬けにする以外に使い道がない以上詳しく聞いても無駄だろう。




「どうした小娘。質問しないのか?」




 アンジュが腕を組みながらニヤニヤしている。


 は、腹立つわね!


 おっと、怒らないで我慢我慢!




「まあ、何を言ってもこの天才騎士検事のアンジュの勝ちは変わらないけどな」




 勝ちが変わらない?


 いいや、それは違うわ。


 全てが終わった頃には逆転しているはずだ。


 必ず変えてみせるわ。




「ドラゴ裁判官に奈々子弁護士候補生さん。続きを話してもいいかしら?」




「魔法使いのエリス殿。この天才騎士検事アンジュのこともお忘れなく」




「はい、アンジュ騎士検事」




 魔法使いのエリスはそう言って杖の先端を人差し指で撫でながら話し始めた。




「最後にボムフレアですが、この魔法はあらゆる物を爆発させる魔法です」




 爆破か。


 ん?


 爆破?




「魔法使いのエリスさん。そのボムフレアはあらゆる物を爆破するんですよね?」




 もしかして、この魔法凄く重要なんじゃないか?


 そう思って魔法使いのエリスにあたしは質問した。




「ええ、だけど奈々子さん。あなたの考えていることは分かりますよ」




 しばし静かな間が出来て視聴席の連中やアンジュなどが静かになる。


 嫌な予感がする。


 そして魔法使いのエリスは口を開いてこういった。




「この魔法ボムフレアは『煙が出ない』です」




「!?」




 やはり魔法使いのエリスから最悪の回答が出た。


 変だわ。


 魔法使いのエリスの魔法リストから煙魔法がないじゃない。


 一体どうすればいいの?


 もう少しで真実にたどりつけそうなのに!




「小娘。魔法使いのエリス殿が犯人だったと言いたげな尋問だったが無意味だったな」




 ここまでか……。


 どうすればいいの?


 頭をかきながら今までのことを思い出す。


 ん?


 あった!


 魔法の『ログ』が残っている!




「おいおい、あの弁護士の候補生ここで終わりなんじゃないか?」




「ああ、ゾン太郎さんの無罪を勝ち取るとか言ってたがどう見てもそうは思えない展開だぜ」




「無意味に引き延ばした裁判だったな」




「やっぱり新人潰しのアンジュの勝ちだな」




 視聴席の連中がざわざわと勝手なことを言い出す。




「待ってください!」




「奈々子さん。何かありますかドラ?」




「はい。魔法使いのエリスさんの過去の魔法ログを見せて下さい!」




 あたしの勘が当たればゾン太郎さんの無罪を勝ち取ることができる!




「それは拒否しますわ。プライベートなことですから」




 魔法使いのエリスはそう言って嫌がった。


 魔法使いのエリスの顔を見ると何か焦っている表情をしていた。


 大丈夫だ。


 追い詰めている。


 真実に近づいているのが分かるわ。




「ドラゴ裁判官。エリスさんに魔法のログを見せてもらえるようにお願いします」




「分かりましたドラ。オーク警察のゴン蔵さんが魔法役所関係の人から調べるように頼んでみますドラ。調査には時間がかかります。しばらく時間を置いて魔法使いのエリスさんのログを出しますドラ」




 ドラゴ裁判官はそう言って木づちを叩いた。


 魔法使いのエリスがそれを聞いて動揺している。


 やっぱり犯人は魔法使いのエリスかもしれない!

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