第10話

「良いか、更新期限というのは魔法使いの呪文を登録した後に出る期限のことだ」




「期限……ですか?」




「そうだ魔法使いは魔法を使えるようになるには魔法役所で好きな魔法を選び、三つしか選べない魔法のリストに選んだ魔法が書き込まれる」




 なるほど登録されるのね。


 覚えるものではなく選んで登録すると言うことか。




「それと魔法はレベルに合わせて覚える魔法と覚えられないもの、つまり登録されない魔法もある」




 ふむふむ。


 全部いきなり覚えられるわけじゃないのね。


 何でアンジュのやつは魔法関係のことを知っているのだろう?


 あたしが思うに魔法はそれだけ有名ってことか、もしくは常識なのだろう。


 それは分かったが更新期限は何なのだろう?




「アンジュ騎士検事。魔法が魔法役所で登録できることは分かりました。では更新期限とは何ですか?」




「その魔法を登録した日にちから今日までの期間のことだ」




 つまり魔法使いのエリスは異世界召喚と呼ばれる魔法を先月の十八日ほど前に登録したということか。


 だいたい分かった。




「説明どうもありがとうございました」




「まだあるぞ。小娘」




「えっ?」




「魔法役所で前の魔法をログで見ることも出来る。それは魔法役所が調べることが出来るので三つ以上の魔法を覚えようとしたら今覚えている三つの魔法のうち一つを消して上書きしなくてはならない」




 なるほど。


 魔法のログはつまりインターネットで言うログか。


 つまり四つ目の魔法を覚える時はすでに覚えている三つの魔法のうち一つを消してそこに新しい魔法を使えるように書き込むのか。


 そしてアンジュ騎士検事の言うことだとこの異世界召喚の魔法は先月の十八日に登録したものだから、先月の十九日は別の魔法を覚えていたことになる。


 それは魔法役所で確認出来るということだ。


 知りたいことは他にもあるから魔法のリストを見てみよう。


 二つ目の魔法。


 アイスストーン、更新期限五日前。


 これは事件が起こる前の日に近いわね。


 三つ目の魔法。


 ボムフレア、更新期限二日前。


 これも事件の起こる前に登録されている。


 というかこのボムフレアの更新期限はゾン太郎さんが言っていた事件の日になっている!


 怪しいわ。


 ボムフレアで爆発させたのかもしれない。


 これで魔法使いのエリスさんが有罪になる可能性があるかも。


 おっといけない!


 そう早く魔法使いのエリスが犯人だと今言っても、周りの連中やドラゴ裁判官などが証拠不十分だと言って納得してくれないわね。


 冷静になるのよ、奈々子。


 一応それぞれの魔法について聞いて見るか。




「魔法使いのエリスさん、このそれぞれの魔法について詳しく説明してください」




「ふふっ、いいですよ。どれも事件とは関係のない魔法ですから」




 エリスは笑いながらそう言った。


 たとえそれが意味のないことだとしても一つ一つの証拠を集めれば真実に近づく。


 今は魔法使いのエリスの説明と更新期限について考えよう。




「まずは一つ目の異世界召喚術ですけど、この魔法はコナカ博物館の日雇いの前に人材派遣のための会社に勤めるのに必要な魔法でした」




 人材派遣の会社?




「あの、魔法使いのエリスさん。人材派遣の会社とは?」




「小娘。この天才騎士検事アンジュが説明してやろう」




 またあんたかい。


 まぁ、聞くしかないわね。




「はい。アンジュ騎士検事、どうぞ人材派遣の会社について説明してください」




「よかろう。一度しか言わないから心して聞くがよい」




「はいはいはいはい。どうぞ」




「むっ! 何やら小娘がこの天才騎士検事アンジュを適当に対応している気がするぞ!」




「いえいえ、とんでもない。説明してください」




 変なところで鋭いわね。


 アンジュ騎士検事は両手を広げて演説でもするようなしぐさを見せて説明した。




「人材派遣の会社は、小娘のように異世界から魔法でそれぞれの仕事に相性がぴったりの人間を私たちのいる世界にブラックホールを通じて召喚する魔法だ」




 なんか若干強制的な魔法を使う会社ね。


 勝手に召喚されて働けなんて人によっては嫌だろう。


 あたしが召喚されたら絶対に弁護士以外の仕事を断って帰るわね。


 っていうかあたしを異世界に入れたあの黒いホールはブラックホールっていうのか。


 宇宙なら吸い込まれておしまいだから縁起でもない名称ね。


 アンジュは続けて説明する。




「召喚された人間がこの仕事を断れば、魔法使いに記憶を消され、元の世界に戻るシステムを構築した会社だ」




 あ、そうなの。


 一応拒否したら帰れるわけね。


 っていうかブラック企業みたいだわ。




「しかし記憶を持ったまま容姿だけ戻って元の世界に戻される例もある」 




「そして異世界召喚魔法はそのために使われるわけですね?」




「その通りだ、小娘。異世界召喚術でお前は呼ばれたのだ」




「確かにあたしは呼ばれましたけど、承諾を得ないで強制でこの異世界に来ました」




「あら、そういえばそうだったわね。じゃあ元の時間に戻して、あなたのいる世界に返してあげようかしら? 時間も召喚された日に戻るし、肉体は召喚された時に戻るわよ。ただ、記憶は消すけどね」




 魔法使いのエリスは杖を右手で撫でながらそう言った。


 ここまで裁判やって帰るのは中途半端で嫌だ。


 弁護士ならば最後まで法廷に付き合って、元の世界に返してもらおう。


 それに時間戻して元の世界に戻れるなら問題ないわね。

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