第9話
何故ゾン太郎さんが運んだ馬車から煙が出たのか?
ここが疑問だ。
普通の火事ではない。
では煙が出たのは手品か魔法でも使ったとか?
ん?
待てよ。
魔法。
そう!
魔法よ!
確かここの世界の魔法使いは三つまで魔法を習得できると書いてあった。
つまり魔法使いのエリスさんが『煙を出せる魔法を持っていた』としたら?
それが関係しているのかもしれない。
でも何故魔法使いのエリスさんが犯人だとあたしは思っている?
魔法使いのエリスさんが持っている魔法のリストを見せてもらうしかないわね。
「ドラゴ裁判長。魔法使いのエリスさんを証言台に呼んでください」
「エ、エリスさんですかドラ? しかし彼女はこの事件に爆破物があったことを伝えただけで深く関わっていないと思いますがドラ」
そう、その事件に馬車で爆破物があると言い出す以外関わっていた点が無いのが今までで不思議だった。
魔法のリストで煙系の魔法が登録していれば犯人で間違いないだろう。
「おい聞いたかよ。あの弁護士候補生。自分を俺達の世界に呼んだ魔法使いのエリスを疑っているんじゃないのか?」
「ああ。仮に魔法使いのエリスが犯人ってことあるわけないよな? だって犯人が自分から弁護士呼ぶなんて変な話だしな」
「あの弁護士の候補生。一体何考えてんだろう?」
「俺はゾン太郎さんが犯人だと思うけどなー。最初からアンジュの言う通りだと思うぜ」
ざわざわと騒ぐ視聴席の連中の言葉を気にせずにあたしは魔法使いのエリスを待った。
そろそろこの裁判も終わりが近いだろう。
何故ならやっと新犯人に尋問出来るのだから。
そう、犯人は魔法使いのエリスだ。
※
七分後に弁護士休憩室から事情を聞いた魔法使いのエリスが証言台にたどり着いた。
「あら、奈々子ちゃん。なんで私を呼んだのかしら? もう裁判終わったの?」
魔法使いのエリスは事情を聞いてもとぼけてそんなことを言って、杖を頭にコツンっと叩いて笑った。
それを見ている視聴席の連中もそんな魔法使いのエリスを見て楽しそうに笑っている。
「魔法使いのエリスさん。あなたは日雇いでコナカ博物館に事件の日にいましたね?」
その言葉にピクリと魔法使いのエリスは反応した。
「ええ、いましたけど。それが何か? まさかそんなことの為に私を証言台に呼んだんですか? こっちも暇ではないんだけどね」
魔法使いのエリスは呆れたような表情をしていたが、どこか仕草が神経質そうに見える。
何か隠している。
そう直感した。
「魔法使いのエリスさん。あなたの三つの魔法を見せて下さい」
「あら? なんでここで私の三つの魔法を公開しなきゃいけないのかしら?」
「あなたがこの事件の犯人だということで疑われているからです」
魔法使いのエリスはそのことに驚いたような大げさに手を天井に上げた。
魔法使いのエリスが上げた手の天井の上には、火の精霊ウィル・オ・ウィスプがいて笑っていた。
「えー、私が犯人だと疑われている? ありえないから驚いちゃった」
視聴席の周りの連中も魔法使いのエリスのその仕草や言動でまた笑い始めた。
かまわないわ。
そうやって今は笑っていればいいわ。
真実に近づているのだから、そのうちみんなも笑わなくなるでしょうね。
「小娘。いくらなんでも魔法使いのエリス殿が犯人と決めつけるのはあまりに滑稽ではないか?」
あんただってゾン太郎さんが犯人だと決めつけてたじゃない。
まぁ、いいわ。
「魔法使いのエリスさん。三つの魔法を公開してくれますか?」
「いいわよ。でも事件と関係がない魔法だと思うけど、それでもいいのかしら?」
「それを判断するのはあたしなので気にせずに見せて下さい」
「分かりました。では魔法のリストを立体映像でお見せしますわ」
そう言って魔法使いのエリスは呪文を唱えて、証言台の中心に緑色の板に黄色い文字が表示された立体映像が現れた。
「これは魔法じゃないですか?」
「小娘。これは数に入らない魔法使いなら誰でも必須で覚える表示魔法だ」
なるほど。
一応これも魔法ってわけね。
生まれて初めて魔法を見たが、タネや仕掛けもない魔法と呼ばれる奇跡の瞬間に体が震えた。
これが魔法。
すごい!
いけないいけない、驚いてばかりもいられないわね。
ここは異世界。
強いて言えば私のいた世界とは違って、やっぱりなんでもありな気がする世界だ。
きっと魔法を使って犯罪をする連中だっている。
だから魔法使いのエリスは犯罪をしているかもしれない。
それなら少しでも怪しい魔法があれば追求しなきゃ!
よし!
真実は後少しだわ!
やってやるわよ!
魔法のリストらしき文字が見えたのでそこを確認した。
一つ目の魔法。
異世界召喚術、更新期限先月の十八日。
ん?
更新期限?
「あの、魔法使いのエリスさん。一つ聞きたいのですが……」
「小娘。言いたいことは私には分かるぞ。更新期限のことだろう?」
アンジュがそう言って私の方に顔を向ける。
「は、はい。そうですけど」
「聖石と同じように説明してやろう。ありがたく思うのだな」
また上から目線の説明か。
ちょっとウンザリするけど、知らない以上は聞くしかないか。
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