第7話

「イザエモンさん。あなたは事件当日どこにいましたか?」




「んー、自分の家にいたよ。ただひとつ困ったことがあってね」




 困ったこと?


 何かしら?




「困ったことというのは?」




「んー、自分の博物館に聖石を館長室に置いたままだったんだ。事件のあった次の日に取りに行ってね。そしたら着信履歴が残っていたんだよ」




「着信履歴は誰か分かりますか?」




「小娘。そんな些細なことが役に立つのか? 意味がないだろう?」




「いえ、あります。犯人を絞り出す上で大事です」




「ふっ、どうだか」




 自称天才のアンジュ騎士検事は気取った感じで腕を組んでどや顔になっていた。


 む、むかつく。


 おっと、我慢しなきゃ。


 それに相手にするだけ無駄だからアンジュは放っておきますか。


 そんなことより気になるのは着信履歴ね。




「イザエモンさん。その着信履歴は誰からでいつ来たんですか?」




「んー、私の聖石にかけてきたのは職員のゾン太郎君で事件のあった日だね」




 なるほど。


 イザエモンさんの犯人の可能性は低くなったわね。


 ただ共犯なら別だけど、共犯でやった事件には思えないわね。


 それはただのあたしの勘だけど。




「んー、棍棒の写真だったよね? 今オーク警察の人が撮っているからすぐに届くよ」




「あ、お願いします」




 写真で撮ったということはその後馬車でバンエイ博物館に運ぶまで何も出来ないはず。




「イザエモンさん。自宅にいたのは分かりましたが、あなたは事件のあった日は家で何をしていましたか?」




「んー。そうだねぇ、僕はゾン太郎君が運ぶまで写真を撮った後に自分の家に帰ったね。職員も全員知っているよ。その後僕は家で昼寝をしていたよ。午後は読書かな。もしかして僕が犯人だと思った? おー、冗談きついよー。あっはっはっ!」




 び、微妙にアメリカンなノリで話すわね。


 それプラスなんかイザエモンさん胡散臭い感じで喋るわね。


 怪しいわね。 


 こうは考えられないかしら?


 イザエモンさんが写真を撮り、その後に棍棒を盗んだとか?


 写真を撮って帰ったといっても、その後に棍棒を持ち去って帰ったかもしれない。


 いや、可能性としてはあるが低いわね。


 オーク警察のゴン蔵さんがドラゴ裁判官に写真を渡して、次に私の方に写真を渡した。




「ドウゾ ベンゴシサン ショウコヒン デス」




「ありがとうございます」




「イエイエ」




 今度はちゃんとお礼が出来たわね。


 さてと、写真を見てみるか。


 棍棒の写真を見た。


 デスクトップのパソコンくらいの高さで棍棒の先端は赤い光が輝いていた。


 ふむ、これが盗まれた棍棒の見た目ね。


 赤い光はダイヤみたいね。


 ちょっとこの棍棒について聞いて見るか。




「この棍棒は歴史のあるものなんですか?」




 私の質問にイザエモンさんがこっちを見て答えた。




「んー、売れば少なくても三億ゴールドするね。元々人魔大戦で使われていた武器だよ。世界に一つしかないレアものだよ。しかも埋め込まれている赤いダイヤは傷を治す力があるんだよ」




 そう言って指に付けているダイヤモンドの指輪を見せつけた。


 か、金持ち自慢?


 まあ、そんなことはいいわ。


 今は棍棒について考えなきゃ!


 やはり高価なものなのね。


 それはそうと人魔大戦って何かしら?




「すいません。ドラゴ裁判官、人魔大戦って何ですか?」




「今からおよそ一万二千年前に人とモンスター同士で勃発した戦争ドラ。戦争の終結は呆気なかったけれどドラ」




「呆気なかった? それはどうしてですか?」




「人魔大戦は魔王ププリスが先導していたわけではなく、その配下たちが起こした戦争だったドラ。だからこそ、人間が提示した和平交渉に戦争を早く終わらせたいと思っていた魔王ププリスは快く快諾してくれたドラ。これが人魔対戦の全容ドラ」




 ドラゴ裁判官がそう説明してくれた。


 今の裁判では人魔大戦はそこまで重要ではないけど、この異世界の歴史は知ることが出来たわね。


 戦争に使われた歴史のある高価な棍棒……盗む奴が出てきてもおかしくないわね。


 棍棒の外見の確認だけでも証拠品としては重要ね。


 ならやることは一つね。




「この棍棒の写真を重要な証拠品として弁護士側は提出します」




 あたしのその言葉に視聴席の周りがざわざわと騒ぎ出した。




「おいおい、あの弁護士候補生かなり証拠品を集めたがっている気がしないか?」




「そうだな、この前の異世界の奴とは別格の腕前に見えるな」




「もしかしてアンジュの奴が負けるんじゃないか?」




「いや長引かせているだけで大したことないんじゃないか?」




 周りの視聴席の連中がガヤガヤと騒ぎ出した。




「静かにして下さいドラ。静かにして下さいドラ」




 ドラゴ裁判長が木づちを叩く。


 その中であたしはこの棍棒がお金目当てで盗まれた可能性が高いと思い始めた。




「んー、あ、そうだ! 思い出したことがあった」




 イザエモンさんが何かを思い出したようだ。


 重要なことの気がする。




「イザエモンさん。何か他にわかったことがあったんですか?」




「んー、些細なことなんだがね。事件の起こる前の日に日雇いで良いという条件で雇った魔法使いがいたんだよ。んー、名前なんていったかな?」




 事件のあった日の前に採用された日雇いのアルバイトの人物?


 なんか怪しいわね。


 ちょっと聞いてみるか。




「その日雇いの人はなんて名前ですか?」




「んー、確かエリスって言ってたかな? なんか私と同じように馬車の中の棍棒を見ていたね」




 エリスってあたしをこの異世界に転移させた魔法使いのエリスさん!?


 ここにきて新しい犯人候補がでたわね。


 エリスさんか、最初は疑いもあまり無かったけど怪しくなってきたわね。


 犯人の可能性は低いと思っていたが、ここにきてそれが高くなったわ。


 しかし、証拠がまだ足りない。


 決めつけるにはまだ早い。


 いったい誰が盗んだの?

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