第6話

「あ、あの続きを話してもいいですかゾン?」




 そう言いながらゾン太郎さんは手をブラブラさせながら足をまだ激しく屈伸していた。


 言えば言うほど自分が疑われていることになっていると思って緊張しているのだろう。




「はい、どうぞ続きを」




「は、はい。事件が起きたのは二日前の昼頃ですゾン」




「二日前に棍棒が盗まれていたんですか?」




「い、いえ盗まれたというより爆発物が仕掛けてあると魔法使いのエリスさんが来てそう言ったゾン」




 爆破物?


 そこで私を異世界転移させた魔法使いのエリスさんが関わっている?


 それじゃあ棍棒自体はどうなのかしら?


 棍棒が盗まれたのがわかったのはいつなの?


 いかんいかん、頭切り替えないと。


 まず爆発物が仕掛けられていたという魔法使いのエリスさんの言動でコナカ博物館の関係者が怪しくなる。


 試しに関係者に聞いてみるか。


 それなら役職の高い人が良いわね。


 部下のことも管理しているから何か変なことがあっても気付きそうだし。


 よし、そうと決まれば実行よ!




「ドラゴ裁判官。コナカ博物館の館長を証言台に呼んでもらえないでしょうか?」




 まずコナカ博物館の館長のしたことが棍棒窃盗に関係がある可能性が少しある。


 爆破物はその後に付けていた?


 何故盗んだのに爆破物を仕掛けるのか?


 そこは変な気がする。


 爆破物で事件を混乱させてその時にいた魔法使いのエリスさんを新犯人にしようとしている?


 爆破物と思わせて棍棒を盗んだように思わせる?


 その通りだとしたら、なぜそんな手間のかかることを?


 それは滅茶苦茶な気がする。


 うーん、謎だわ。




「小娘。館長は関係ないであろう? それともまた時間稼ぎか?」




「いいえ、時間稼ぎじゃありません。これは事件のあった日のことを棍棒が盗まれた犯人を絞り出すために必要なことです」




「では奈々子さんの言う通りコナカ博物館の館長を証言台に呼びますドラ」




 ドラゴ裁判官が木づちを叩いてコナカ博物館の館長が呼ばれるまで待つことにした。


 まずは『棍棒がゾン太郎さんの運んだ馬車に積み込まれているのを確認できている』かを知らなくてはいけない。




「小娘。これで意味のない証言ならゾンビのゾン太郎殿は有罪だぞ」




「ひ、ひいぃぃぃ! 僕はただ館長に頼まれて棍棒を運んだだけですゾン」




「アンジュ騎士検事さん、ゾン太郎さんが有罪とは思えないですね」




「なんだと?」




「弁護士は依頼人を信じぬくのが当たり前のことです。だから無罪にしてみせましょう」




「な、奈々子さん。無罪になることは約束ですゾン」




「ええ、大丈夫ですよ。一歩一歩真実に近づいているのだから」




「ふん! では小娘のその自信と無罪へのやり方を見せてもらおうではないか。検事側はゾンビのゾン太郎殿を最後まで有罪と主張する」




「弁護士側は変わらず無罪を主張し、新犯人を見つけ出して有罪にします」




 周りが静かになり期待と好奇心の視線があたしや自称天才騎士検事アンジュに送られた。




「では、コナカ博物館館長がくるまでしばし待ちますドラ」




 そう言ってドラゴ裁判官は木づちを叩いた。







 五分経過してコナカ博物館の館長が傍聴席もとい視聴席から証言台にやってきた。


 見た目は普通の人間で白髪の170センチくらいのいかつい男性だった


 そのいかつい男性もといコナカ博物館の館長が証言台の前に立って一礼した。




「んー、どうも初めまして、私コナカ博物館の館長をやっているコナカ・イザエモンです」




 イ、イザエモン。


 な、名前が江戸時代の人のようなネーミングセンスだわ。


 おっといちいち驚いてもいられないわ。


 この人が棍棒を運ぶ前に積み込みを見ていたのを確認したとか聞かなきゃ!




「イザエモンさん、あなたはゾンビのゾン太郎さんが馬車で届ける棍棒を運ぶ前に確認しましたか?」




 これで確認していたらコナカ博物館の館長のコナカ・イザエモンさんは犯人ではない可能性が高いわ。




「んー、もちろん確認していましたよ、弁護士のお嬢さん。ちゃんと写真も撮ってます」




 証拠の写真か……見てみたいわね。




「ドラゴ裁判官。コナカ・イザエモンさんの撮ったその写真を証拠品として提出を希望します」




 これは棍棒の形や色を知るのに必要不可欠だ。




「イザエモンさん。写真をコピーしても良いでしょうか?」




「んー、別にどっちでも良いよ。そうだねぇ、スライムカメラで確認写真の写真を撮りましょう。それでOKですね?」




「はい、それでかまいません」




「ではオーク警察のゴン蔵さん、証拠品をすぐに撮れるスライムカメラで撮ってくださいドラ」




「ええい! また規則とやらで騎士検事の私が最後に証拠品を貰うのか!」




 騎士検事のアンジュが凄くどうでもいいことで怒っていた。


 それにしてもこの騎士検事怒ってばかりね。


 子供すぎるわ。


 やっぱポンコツね。


 そう思っているとスタンバイしてたのか、オーク警察のゴン蔵さんがすぐにやってきた。




「デハ シャシン トリマスネ」




「んー、どうぞどうぞ。はい、これが運ぶ前に撮った写真です。うちのコナカ博物館の決まりで他の博物館に運ぶ前に荷物を撮影するのが規則になってます」




 それだとイザエモンさんは犯人ではない可能性が高くなるわね。


 あとは事件の日にコナカ博物館の館長のイザエモンさんがどこにいたのかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る