第4話

「分かりましたドラ。オーク警察のゴン蔵さん。スライムカメラを持ってゾン太郎さんの証明書の撮影をお願いしますドラ」




 スライムカメラ?


 オークが警察?


 スライムカメラは想像つかないけど、オークが警察って何かシュールね。


 うーん、異世界ってやっぱ不思議なことだらけね。


 あたしがそんなことを考えていると、裁判所の出入り口から警察官の服を着た緑色の肌をしたスキンヘッドのいかついモンスターが入ってきた。


 おそらく彼がオーク警察だろう。


 確か名前はオークのゴン蔵さんだっけ?


 そんなことを思っているとオーク警察のゴン蔵さんはゾン太郎さんに話しかけた。




「シャシン トッテモ イイデスカ?」




 か、カタコトなのね……。




「はい、どうぞだゾン」




 オークのゴン蔵さんはゾン太郎さんの証明書に何やら液体が流れているカメラで撮影を始めた。


 しかし、スライムカメラって何だろう?


 あたしの世界と同じカメラっぽい気がするけど、聞いてみるか。




「あ、あのドラゴ裁判官。スライムカメラって何でしょうか?」




 やばっ! 


 あたしまだ緊張している。




「カメラにスライムの液体の一部を混ぜた映像撮影機ですドラ。シャッターを押したらすぐに写真が出るのでこの世界ではよく使われているカメラですドラ」




 ドラゴ裁判官の説明で緊張がしなくなった。


 なるほどね。


 何故スライムの液体ですぐに写真が出るのか謎だけど、映像だけでなく紙媒体で出るのは便利ね。




「小娘。くだらん時間稼ぎは見苦しいぞ。そんな証拠品が何の役に立つ? 犯人はこのゾンビのゾン太郎殿だ。棍棒を馬車から盗んで自宅に隠している。これで決まりだ!」




 検事側のアンジュがそう言って剣を私に遠くから向けた。


 勝手に決めないでほしいわね。


 アンジュの持っている剣は今にも私を斬りつけてきそうだ。


 あの剣本物の剣なのよね?


 だとしたら銃刀法違反になるけど、この世界だと危害を加えない限りは所持していても問題ないとか法律書に書いてあったわね。


 どちらにせよ物騒なやつね。


 いけないわ。


 本物の剣にビビってないでちゃんと答えないと不利になる。




「……ゾ、ゾン太郎さんの出発した時間と日にちは重要です。何故なら犯行時間と合うのかという……」




「ぬぎゃあああああ!!」




「な、なんですか?」




 何よ、いきなり何が起きたの?


 アンジュの奴が突然叫んでショックを受けたような顔しているわ。




「な、七分経ってしまった」




 はい?




「小娘がグチグチと戯言を抜かすから私の宣言した七分で終わることが出来なくなったではないか!」




 な、なんて自己中心的な検事なの。


 あたしより年上なのに子供っぽいと言うか、もう呆れるしかないわね。


 だいたい七分って勝手にそっちが決めたんでしょう。




「こ、小娘。やるな! 天才と呼ばれたこのアンジュに七分経過させるとはどうやら秀才の域には達していたようだな! 誉めてつかわす!」




 は?


 何が天才よ。


 というかなんで褒められるとかそういうことになるのよ?


 自信過剰な検事、いや騎士検事ね。




「サツエイ オワリマシタ」




「うわっ! びっくりした」




 何事かと思えばオーク警察のゴン蔵さんの声だった。


 か、影薄いと言うか無口というか声が渋くて独特だから驚いたわ。


 オークのゴン蔵さんが悔しがっているのか喜んでいるのかわからないやや興奮しているアンジュを無視してドラゴ裁判官にぼそりと報告した。




「ではゴン蔵さん写真を提出してくださいドラ」




「ワカリマーシタ」




 オーク警察のゴン蔵さんは階段を上って裁判官に写真を提出した。


 その後にあたしの方に視線をやり階段を降りて近づいた。


 弁護士席の前にたどり着くと写真を渡してくれた。




「ショウコ デス。 ドウゾ ベンゴシ サン」




 近くで見るといかついというか体つきが相撲取りみたいに大きい。


 ちょっと怖かった。


 だけど匂いはいい匂いがした。


 男性用の香水付けているのね。


 意外とおしゃれだわ。


 オークとかモンスターってそういう匂いとか野生の匂いのそれと同じだと思ってたわ。


 でもそんなイメージ崩れたわね。


 所詮は小説とかファンタジーの勝手な偏見で実際は違うのね。


 あ、お礼言わなきゃ。




「あ、ありがとうござい……」




「ちょっと待った!」




「えっ?」




 写真を貰うと奥から騎士検事のアンジュの声が響いた。




「何故証拠品を私よりも小娘に先に出す? ここは騎士道として最初に私に渡すべきだろう!」




 何言いだすのよ、あの自称天才騎士検事は……ゴン蔵さん黙りっぱなしだし……。


 この裁判大丈夫なの?


 っていうかどうせそっちにも届くんだから順番変えても結果変わらないじゃない。




「キソク デス」




「規則ではない! 私の騎士道精神が先に渡せと言っているのだ!」




 何が騎士道精神よ。


 子供かい。


 だいたい騎士道精神で法律が変わったら裁判駄目になるでしょ。


 法律をなんだと思っているのよ?


 やれやれ、めちゃくちゃな検事もとい騎士検事だわ。




「残り三十秒でその証拠をよこせ! そもそも昔から女騎士にオークが……」




 アンジュが何やらグダグダとオークと女騎士の関係について喋り出した。

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