第3話
「では被告人のゾン太郎さん。自己紹介と職業を言ってくださいドラ」
そう言われてあたしの弁護士席から少し離れた裁判所内の真ん中にある証言台に移動してきたゾンビのゾン太郎さんが手を素早くかつ激しくぶらぶらさせながら、足を大きく屈伸している。
かなり緊張しているみたいだわ。
「は、は、はいゾン! ぼ、僕はゾンビのゾン太郎ですゾン。職業はパンプキン弁護法律事務所の助手とたまに事務所の休日にコナカ博物館の遺物の輸送業をしていますゾン」
なるほど。
兼業しているのね。
この世界じゃ兼業はありみたいね。
そこはこっちの世界の常識で異世界の法律書に書いてあったわね。
あっ!
いや、ちょっと違う。
兼業しても良いけど3つも職業を持つと違反になるって書いてあったわね。
危ない危ない。
「ゾン太郎さん、今回の事件であなたが嘘を言って棍棒を盗もうとしているんではないかと疑いがかけられていますドラ。棍棒が盗まれたのは嘘ではないですかゾン太郎さん? あなたが今持っているのではないですかドラ?」
あたしがそんなことを考えている間にドラゴ裁判官がゾンビのゾン太郎さんに質問してくる。
棍棒を盗んだのはゾンビのゾン太郎さんではないか?
もちろんそんなことはないとあたしは思っている。
そんな中でゾン太郎さんが答える前にアンジュと呼ばれた女騎士風の検事がこう言った。
「ドラゴ裁判官。私はゾン太郎殿がこの窃盗事件の犯人であると主張します。騎士の名誉にかけてそう誓います!」
アンジュはそう言うと剣を抜き取って刃先をゾン太郎さんに向けた。
「さあ! 自分だったと告白しなさい! 今なら軽い罪で済みますよ!」
「ひ、ひいいい! 僕はそんな自分で棍棒を盗むようなことはしてないゾン! う、嘘じゃないゾン!」
ゾン太郎さんはそう言って手を激しくぶらぶらさせながら足の屈伸を早くして怯えているようだった。
何が騎士の名誉よ。
剣を突き出して怯えさせているだけじゃない。
なんで犯人か理由も説明されていないし、こんなんで検事なの?
よし、ここはひとつ言ってやるか。
「アンジュさん。なんで証拠もないのにゾン太郎さんを犯人だと主張するんですか? まだ何も始まっていないじゃないですか」
「小娘。法廷に入ったばかりの新人がそう偉そうにいうものじゃない。この私がそう言うのだから間違いないのだ」
こ、小娘って!
な、なにが小娘よ!
頭にくる検事ね。
だいたい何が騎士検事よ。
ただの騎士が検事やっているのが場違いでしょ。
っていうか何で騎士が検事しているのよ。
女騎士だからって何でも許されると思わないことね。
だいたい間違いないなら理由を述べなさいよ!
全くもう!
ま、まぁ、イライラしててもしょうがないか。
落ち着け、奈々子。
冷静になるのよ。
「では裁判を始める前に検事側準備できましたかドラ?」
「もちろん出来ている。宣言しよう! この法廷での事件はこの騎士検事アンジュの名のもとに七分で終わるだろう」
そう言ってアンジュは剣を上に振りかざした。
何が七分よ。
舐められたものね。
「では弁護士側と検事側が準備出来たので改めて裁判を開始しますドラ。ではゾン太郎さん事件のあった日のことを説明してくださいドラ」
いよいよ裁判が始まった。
まずは被告人のゾン太郎さんの説明と尋問ね。
何か矛盾や不思議なことがあれば聞いてみる。
基本はそれね。
検事は基本的に疑惑のある相手を有罪に持ち込もうとするから間違った相手を犯人にして有罪にさせてはいけないわ。
「まずあの事件が起きたのは昨日だゾン。三日前の午前八時にコナカ博物館の依頼でバンエイ博物館に棍棒を運んだんだゾン。」
ゾン太郎さんが証言台に立ってさっきより落ち着いたのか前より遅くなって足を屈伸しながら手をブラブラさせて話し始める。
「ちょっと待ってください。ゾン太郎さん。運び込んだ時間は三日前の午前八時で間違いないんですね?」
あたしはゾン太郎さんに質問した。
「は、はい。確かに今から三日前の午前八時ですゾン。これが証拠の運ぶための馬車の証明書ですゾン」
そう言ってゾン太郎さんは小さな日付や時間などが書かれた切符くらいの証明書を見せてくれた。
どうやらこれは博物館から博物館へ移動させるために必要らしい証明書のようだ。
これは勘だけど、証拠になりそうね。
よし、裁判官に証拠品になるか聞いてみるか。
「ドラゴ裁判官。ゾン太郎さんの証明書を証拠品として提出することを希望します」
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