おわりに
ロアさんとズザさんの間に、わだかまりはなくなっていた。
あれから一週間ほどたつ。ユキチに化けていたズザさんからはひどく感謝され、何かあれば助けになると言われた。
「抗争は、休戦して、同盟を組むことになったらしいですよ」
カウンターバーの向こうで、美津さんがマキネッタという器具を磨きながらそう言った。マキネッタとはエスプレッソコーヒーを作るためのものらしい。金属製のポットみたいな器具だ。
「同盟……、合併とかじゃないんだ……」
「表向きに、色恋沙汰で取り決めたなど恥ずかしくて言えないようです。まぁ、頭領
の近くにいた幹部の方々には筒抜けなんですけれどね」
くすくすと笑みを浮かべて、美津さんが言った。
俺は溶けてきたコーヒーフロートをストローですすりつつ、笑った。確かに、ロアさんはわかりやすい人だし、ズザさんは平気なふりをしながら意識しているんですと言わんばかりな態度をとる人だ。
「でも、よかった」
俺が言うと、美津さんがマキネッタを磨く手を止め、「ええ」と頷いた。
カラコロンと、コーヒーフロートの中の氷が傾く。俺は残ったわずかなコーヒーとアイスクリームが混ざった液体を飲み干し、ふうッと息をつく。
「美津さんは、どうして妖怪とかの手助けをしようと思ったんだ?」
ふと湧いた疑問を投げかける。美津さんは視線をゆっくり泳がせ、マキネッタを棚に戻してからほほ笑んだ。
「ここに集まるからって理由だけじゃない気がして……」
「ええ、ここに集まるからという理由だけではないですね」
「じゃあ」
ちょっと前のめりに聞こうとすると、彼女は俺に無言を柔らかな笑みを向けた。
「秘密です。個人的なものなので」
くすくすと笑みを浮かべて、オーダーを呼ぶベルに返事をして美津さんは駆けていく。俺はその後ろ姿を眺めた。それから財布から必要な分の小銭を取り出し、美津さんが戻ってくるのを待つ。
俺は椅子の背もたれにもたれ、目を伏せた。特に眠いわけではない。クラシック調の音楽と、柔らかな空気が心地良い。
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