第十五話
だから、ほんの慰み程度で聞こえない・視えない娘としてふるまっていた。
彼らに、
――では、なぜ
それはいつからだったろうか。
時間の積み重ねがそうさせたのだろうか。
あの夫婦は、あの家に置かれたいた私を自らの娘に重ねていたと知っても、
あの二人を、
――たった一つの憐れみだったのに……。
不意にも、思い出していた。
屋敷が炎に飲み込まれそうになって、あの夫婦は混乱していた。炎の渦にのまれそうになり、ガラスケースが煤けた
『せめて、私たちの娘のようなこの子だけでも』
『ずっと寄り添ってくれたこの子だけでも』
そう頷き合った夫婦は、自分たちが死ぬことを予期していたようだった。
炎は窓から入り濃く風が揺らすカーテンのように、チロチロと床を舐めていくようだった。それからしばらくして見た光景は、たった一人暗いところの天井を見ていたことだった。
――思い出した。
彼らは、ちゃんと私と本当の
今初めて、自分が愚かであると知った。
霙が、
言葉はなくても、それが何を意味していたか解った。
「
霙は私のその言葉を聞いても、ただ優しく私の髪の毛を梳いている。
思い出してしまう。
母上が、毎日のように
「あなたは、確かに愛されてきました」
静かな霙の声が、心の奥底にしみる。
母上が、
「
ぼろぼろと雨粒がひっきりなしに
それは雨粒ではなくて、人間が流す涙だと知ったのはいつだったろうか。霙はひっきりなしに零れ落ちるそれを、自らの手が濡れることも
「思い出せましたか? 大事な記憶」
「えぇ、思い出しましたわ。嬉しいのに、それはとても嬉しいのに、なぜ涙がこぼれ
ますの……?」
その質問に霙は答えてはくれなかった。
自分で探しなさいと、諭すような瞳はあの両親と同じように優しかった。すると、心配そうにこちらを見つめてくる青年たちと目が合った。初めて彼らと出会った日、怖がらせてしまったことを少し後悔していた。
そのうちの黒い髪の毛の青年が、悲しそうな表情を浮かべていた。
「ご、ごめんなさい。お見苦しいところを……」
「あ、いえ。お気遣いなく……、あの」
その青年は落ち着いた雰囲気でありながらも、
「俺は両親とまともに暮らしていた時間は短いですけど、やっぱり無くなってから気
づくんですよね……。大切なものが亡くなっても、固執するのは間違ってないと思
います……。それが、大事なら尚更、ですよね」
おずおずと話し出した言葉は、私の感情と似たようだった。苦笑しているが、それでも彼は
そうだ。
もうずっと、彼らのお茶会が再開できる理由を捜していた。それを彼が間違ってはいないと肯定してくれた。それだけで救われた気になった。それにピンク色の不思議な髪の毛をした青年もうなずいた。
「うん、そうだね。オレはそういう経験はないけど、ずっと悲しい顔してたらみんな
悲しくなるもんね。どうせなら、笑顔でいたいよね」
「えぇ、本当にそうね。
「うん、だから笑おうよ。レイラちゃん、パパとママの話をしてた時みたいにさ」
彼の言葉に視線と頬が緩んだ。
すると、彼の表情もパッと
口端がゆるんで、ほうっと息をついた。
それからティーカップを置いて、磨かれたガラスケースを見やる。その中には、もうずっと、
確かに、
それが分かって嬉しかった。
「ねぇ、霙」
「……はい」
呼びかけると、彼女は少し間をおいて返事をした。
「
う、
すると、彼女は予想だにしていなかったのか、瞠目した。
ぱちぱちと大きな瞳を、瞬きさせている。
――あ、綺麗。
思わず目の前が弾けるように輝いた。
「はい、そのように思っていただけたなら光栄です」
霙は姿勢を正して、
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