入れ替わり短歌二十首

入河梨茶

この朝にきみが選んで着た服を

階段を転がり落ちるぼくの手がきみを掴んでしまったせいで



この朝にきみが選んで着た服を夕方ぼくが脱ぎ去る不思議



何気なく受け取る荷物手に重く きみとぼくとの逆転を知る



答案の名前の欄に埋めていく美々しい文字の違和感強く



十四年生まれ暮らしてきた家へクラスメートとして訪れる



カラオケで歌えなかった歌歌い今をしばらく楽しむ二人



去年まで恋焦がれてた長い髪持て余しては切りたくなって



「わたし」にも「わよ」にも慣れちゃいないけど「俺」や「だぜ」にも抵抗覚え



秋の日に引っ越すきみを送り泣く 『転校生』のようにはいかぬ



二年経ち昔のぼくの部屋で見たエッチな本は新品だった



入れ替わり三年が過ぎいつからか二人の時に「ぼく」と言うきみ



「男ってみんなエッチ」と言っていたきみが今ではエッチな男



ふと気づく自分の名前書く時に躊躇をしなくなった自分に



十四で入れ替わり早二十六 この身の方が記憶は長い



「こいつとは古い友達」そう言って『ぼく』と会話をする彼知らず



ぼくは今ぼくに抱かれてきみは今きみの身体を抱きしめている



たくましいきみの腕(かいな)に包まれて女としての悦びを知る



ウェディングドレスが似合うこの姿ほんとはきみが着るはずなのに



「誓います」二人同時に言えるならそれは確かに嘘でないけど



「わたしってこの子のパパかなママかなあ?」きみの疑問はぼくと同じね

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