「失礼します」


障子しょうじを引いて中へ入れば、タンクトップを着た麦わら帽子の小さな少年がそこにいた。彼が依頼人の城島じょうしま和哉かずやである。


士郎が座卓ざたくをはさんで和哉の向かいに座る。座卓ざたくの上に忠彦から手渡された書類を置いた。


軽く自己紹介を済ませ、要望の確認に入った。


「俺、家族ぐるみで川にキャンプに行ったんだけど、足滑らせてそのまま流されて死んじゃって。それから、父さんと母さんが俺のせいで毎日喧嘩するようになって父さんと母さんがばらばらになっちゃったんだ。俺が死んでから大分経つのにまだ父さんと母さんは自分の所為だって責め続けてる。ただ、俺の不注意で死んだだけなのに。でも、俺は死んでるから喧嘩も止められないし、父さんと母さんの所為じゃないって伝えられないから、代わりに伝えてほしいんだ。それで、父さんと母さんに仲直りしてほしい。だから頼むよ兄ちゃん‼︎」


和哉は口をへの字に曲げて視線を上げる。自分の頭よりも高い位置にある士郎の顔を真剣な面持ちで和哉は見た。


「わかった。任せとけ!」


士郎は安心させようと和哉に笑顔を向けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る