参
「ここか?」
士郎は内緒話をするような小さな声で和哉に聞いた。
「うん、父さんいつもここを通って俺の花を買いに行くんだ」
士郎と和哉は隠り世を離れ人間の住まう世界──
和哉はともかく、士郎はあやかしである。あやかしは、体内に秘めたエネルギー量が少なければ幽霊同様に人間に認知されることはないのだが、士郎の場合はエネルギー量が多いために人間に見えてしまうのである。そのため、死んで霊となった和哉と話す時は小さな声でなければ一般の人間の目には士郎が不自然に映ってしまうことだろう。
「あ、父さん来たよ! あれだよ! あれ!」
和哉が人差し指で対象を指し、士郎のコートをくいくいと引っ張った。
「わかった、行ってくる」
和哉の父と思われる男性は、進む足を止め、ズボンの右ポケットに手を突っ込んで何かを探しているようだった。
いまだ!
「ティッシュどうぞー!」
タイミングよくポケットティッシュを差し出せば、視線を下に落としたままであった男性が顔を上げ、士郎と視線が交わる。
「ありがとう。助かるよ」
大きい腹の所為か威圧感があったが、笑ってポケットティッシュを受け取った男性を見て、気のいいおじさんだなと士郎は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます