漆
二人は晩御飯を食べ終えると、縁側に出ていた。
武雄のあぐらをかいた足の横にはつまみが、そして片手には缶ビールを持っていた。一方で
少し酔いがまわってきたのか、ほんの少し武雄の顔が赤く色づいていた。
「何も言わなくてもいいから、父さんの話、聞いてくれるか?」
「うん」
武雄は
「五十五年前の夏休みに家族ぐるみでおまえの友達と川にキャンプへ行ったとき、母さんたちはバーベキューの下準備をしていて、父さんたちはテントを張ったり子どもたちと遊んでいた。父さんはトイレに行きたくて、川から離れたんだ。ほんの少しの間だし、他の親たちも一緒だったから大丈夫だと思ってたんだ。でも、それが駄目だったんだ。和哉、ごめん。ごめんじゃ済まされていいことじゃない。俺がもっとしっかりしていれば……。
警察にも電話して、皆んなで探したのに見つからなくて、どれだけ探しても見つからなくて。おまえはきっともう死んでるんだろうなって月日が流れていくうちにそう思うようになった。でも、せめて死体でもなんでもいいから、父さんのところに戻ってきてほしかった……。じゃなきゃ、墓に手を合わせにいけないじゃないか‼︎」
武雄は涙ながらに、ぐいっと缶ビールを一気飲みする。それは、さらに酔いがまわってしまえば胸に広がる苦しみが紛れることを知っていたからである。
「あれから、母さんとは
武雄は涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で乱暴に拭うと、大きく鼻を
「俺も、父さんと母さんが大好きだよ」
その一言で、救われたような気持ちになったが、
酒の力を借りてではあったが、感情を吐き出せたことで武雄の胸にのしかかった鉛のようなものが少しだけ取り除かれた気がした。武雄は
「さて……もう寝るか」
武雄は泣き腫らした顔で笑顔をつくり、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます