陸
野球をするにしてもあれが無い、と気がついて、武雄は
「なぁ和哉、バットとグローブはどうした?」
「え、えぇっと、持ってくるの忘れちゃった。父さん、昔つかってたバットとグローブとかない?」
「バットとグローブなぁ……」
あったにはあったが、何せ使っていたのはずいぶんと昔のことであり、それが今どこにあるのか記憶にもやがかかる。
「外で遊ぶやつだし、あそこに入ってそうじゃない?」
「見てみるか」
武雄は膝を立てて立ち上がり、二人で倉庫へ向かった。
薄暗い倉庫の中は持ち主がいない忘れ去られたガラクタのように
しかし、倉庫の一番奥に一つだけポリ袋をかぶったものがあった。
「あれじゃない? 父さん」
そう、バットとグローブである。それらだけがポリ袋に入れられ、大事にしまわれていたのである。倉庫を出て袋から出して、それらを繊細なガラス細工に触れるように表面を撫でた。
ここにあったのか、懐かしい……。
まだ綺麗な状態であった。綺麗というには
まるで時が止まってしまったかのように、武雄はバットとグローブをじっと見つめて動かない。
「父さん、早く早く!」
そう言って
野球をしながら武雄は、願いにも似たことを思う。
この時間が永遠に続けばいいのに───と。
結局、他の遊びをすることもなく、日が沈むまでずっと武雄と
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